看板

はい、今年も押し迫ってまいりました。
巣籠りの機会が多くなった昨今いかがお過ごしでしょうか?
記憶のかさブタも86回目。今回はこちらのお題。

魔法使いチャッピー
(1972年4月3日〜12月25日・NET系放映・全39話/製作・東映動画)

これもよみうりテレビではしょっちゅう再放送してましたねぇ。
前の「サリー」「アッコ」、後の「メグ」「ルンルン」という個性派に挟まれてる事、
原点返りが没個性と捉えられた事などもあって、
意外とマイナー扱いを受けてる本作。
私にとっての初原体験魔女っ子アニメは実はコレなんですけどね。




原点回帰の東映魔女っ子アニメ第5作
「魔法使いサリー(1966.12〜1968.12・全109話)」から始まった
東映魔女っ子アニメシリーズは、多くの少女らの声援を受け、
視聴率的にも大成功をおさめ、「少女向けアニメ」の礎を築くことに成功しました。
続く2作目「ひみつのアッコちゃん(1969.1〜1970.10・全94話)」も大ヒット。
アイテムとしてのコンパクトは少女たちの憧れの的になり
母親のコンパクトを持ち出す女児が続出するという事象も。のちに中島製作所が商品化した
コンパクトは大ヒットし、商業的にも成功を収めることになりました。
しかし、三作目「魔法のマコちゃん(1970.11〜1971.9・全48話)」は、主役の年齢を15歳と引き上げた事や、
社会問題告発などのメッセージ性を強めた作風が子供達にウケたとは言い難く、
思ったほどの人気を得られず11カ月で終了。
続く「さるとびエッちゃん(1971.10〜1972.3・全26回29話)」に到っては
もはや「魔女っ子」ですら無く
(忍術なのか超能力なのか神通力なのか、最後までハッキリしなかったなぁ。)
作品内容の評価はさておき、わずか半年で終了の憂き目に。ここでスタッフは
当初の路線から逸脱を始めた魔女っ子アニメをもう一度原点に返らせようと粉骨砕身。
生み出されたのがこの「チャッピー」だったのです。
キャラクター配置などを見ると、「サリー」「アッコ」を意識した面がありありで、
呪文から歌いだしが始まる主題歌、魔法のバトンに見られる明確なアイテムなど、
年少者にも解りやすい王道の設定が心がけられました。

魔女っ子作品にはかかせないマスコット動物もしっかり登場しますが、
チャッピーに出てくるドンちゃんはなんとパンダ。
実は元々ドンちゃんは「小熊」として設定され、デザインもそれに従ったものが用意されていたのですが、
同時期「日中国交回復が近々あるようで、その際親善外交の使節でパンダが寄贈されるかも知れない」
という情報が流れた事もあって、急遽パンダに変更されたとの話です。
にしてもジャイアントパンダじゃなく、なぜレッサーパンダ?と首をかしげる人もいらっしゃるかも知れませんが、
昭和30〜40年代前半までの動物図鑑を見ると、レッサーパンダを「パンダ」と表記し
紹介していましたから、当時の子供達にとっての「パンダ」はドンちゃんのようなレッサーパンダで正しい訳なのです。
パンダブーム後のレッサーパンダはパンダの亜種扱いになっていますけど。
ちなみに第一話はこんな感じで始まります。

第1話 魔法家族がやって来た
魔法の国に住むチャッピー一家。今日は魔法の国の王様のパーティー。
名誉と格式ある宴だが、チャッピーには窮屈かつ退屈極まりない。
そんな最中、0時を過ぎてしまったためカボチャの馬車の魔法が解け、
馬がネズミに戻り、ネズミが暴れまわったためパーティーは大混乱。

その騒ぎに乗じて、チャッピーとジュンはこっそり魔法のバトンと魔法のほうきを持ち出して
以前から興味津々だった人間の世界に降り立つ事にした。ついにやってきた憧れの人間界!
…だがそこは、公害と交通戦争が渦巻く世界だった。あれこれ考えるよりまず行動、と、
チャッピーは魔法のバトンで空き地に屋敷を勝手に建設。チャッピーを追ってきたパパとママは
なりゆきとは言え、やむを得ず人間界で暮らす事に。
こうしてチャッピーの人間界での生活が始まったのです。


シリーズ前半は次第に拡がっていくチャッピーらの人間関係や、人間界と魔法界とのギャップ、
街を舞台にした様々な出来事を中心にストーリーが進行していきます。
魔女っ子シリーズの常連でもあった辻真先・城山昇・雪室俊一らの筆による
企画通りの「原点回帰」が重視されたエピソードが次々描かれ、
多くのスタッフがチャッピーの最高傑作と評価する
芹川有吾演出・荒木伸吾作画の第10話「幻のD51」もこの流れで生み出されました。


こうしてある意味、石橋を叩いて渡るが如く王道を突き進む形で開始された
チャッピーだったのですが、放送が進むにつれ想定外の事情が発生してしまうのです。


  

大混迷!東映動画「ロックアウト」の余波
このチャッピーが放送された1972(昭和47)年という年は、
東映動画の新作TVアニメが3作しか作られていません。
(チャッピー・デビルマン・マジンガーZ)これは翌年の制作数
(1973はバビル2世・ミクロイドS・ミラクル少女リミットちゃん・ドロロンえん魔くん・キューティーハニーの5本)
比較しても明らかに少なく、しかも本来の番組改編期(4月・10月)に放映されたのはチャッピーのみ。
これは日本のアニメ史上有名な事件のひとつとして知られる東映動画ロックアウト騒動の影響によるものです。

もともと東映動画は東洋のディズニーを目指して、
年に一本ないし二本の劇場用長編動画を制作する事を生業としていて、
それゆえに巨大なスタジオを構え、数百人の契約社員を抱えていました。
例を挙げると、昭和38年(1963)劇場作品「わんぱく王子の大蛇退治(演出・芹川有吾)」
当時の値段で7000万円の製作費(通常の劇映画2本分以上の予算)に、
9万枚の使用セル、180人のスタッフが8ヶ月半かけて作っていました。
これで得られる利益は基本、映画の興行収入。
海外輸出などの利益も合わせてなんとか黒字になっていました。
しかし昭和33年をピークとして次第に映画がテレビに取って代わられ、
観客数は年々減少し、昭和40年代に入ると完全に映画は斜陽産業化。

ヴェニス(ベネチア)映画グランプリまで獲得した大映が倒産し、
裕次郎や旭といったスターで毎日映画館がはち切れんばかりの盛況だった日活も
負債をかかえて一般映画から撤退しロマンポルノへ転身。
国内最大の映画会社だった東宝も5社に分社化して
独立採算制を取るようになる一方で、レジャーや不動産業などの多角経営にシフトし苦境をしのぐに到り、
松竹も斜陽化の余波を受けて京都の太秦撮影所を閉鎖。観客を得るために慣れないピンク映画や
怪奇映画・怪獣映画まで手を出す始末。そんな中で最も激しい労組抗争が行われていたのが東映でした。

特に昭和40年代に入ってからの労働争議は熾烈を極めていて、
いたるところで労組側の職員と会社側との抗争が日常茶飯事的に勃発していたそうです。
そんな中でも不採算部門として厳しい立場にいたのが東映動画。
年2本の長編ないし中編動画を、莫大な予算と長い時間をかけ、数百人単位のスタッフが制作…。
当時のアニメは人件費の嵐でしたから無理も無いのですが、
いざ観客動員数が落ち込むとこの体制は会社にとって重い負担になり始めます。
1960年代中盤からTVアニメの時代になり、東映も早くから参戦したものの、
当時はアニメのマーチャンダイジングシステムがまだ完全に確立しておらず、
試行錯誤期故の不安定な経営が続いていました。
当時の関係者の証言を紹介しましょう。

登石雋一(東映動画・製作担当(当時))
アニメ製作にはたいへんなお金がかかるわけです。
その予算管理もたいへんむずかしい。
なにせ機械でものをつくっている訳ではないので、予測が立てにくいところへ
制作期限が延びたり、予算が大幅に変わったり…ということになるわけです。
そのへんのコスト計算は誰がやってもすぐ解る事なんですが、そこが立場の違いと
いいますか、率直に事実について検討する、というようにいかなかった。
経営サイドの配慮が足りなかったせいもありますが、(制作サイドと)互いに
理解しようとする姿勢が不足していたのでは、と、まことに残念に思いました。
一例を挙げてみます。
テレビ用アニメを外注で製作しますと、380万円で出来ます。
ところが、これと同程度のものを社内で作ると1000万円もかかってしまうのです。
当時(昭和40年代中頃)、テレビ用アニメ一本あたりの受注金額が
450万円くらいでしたから、社内製作だととても採算が取れないわけです。
こういう状態では、到底長い将来に渡って製作を続けるという事は
無理だということは誰にでも解りますよね。

宮崎駿(1971年まで東映動画在籍)
ここで、東映動画に対する恨みつらみを言わせていただきます。
私が一番残念に思ったのは、東映動画スタジオがものをつくる場所では
なくなってしまったということです。私が昭和38年に入社して、「これが最後の社員」と
いうことで、実に8年間にわたって一人も後続が無く、新人を続けていたということです。
これでは空気がよどんでしまいます。
こうした異常な事態が何に起因するか知らないわけではありませんが、
会社も、働いてる側も、もっと「ものをつくる」場所を大切にしてほしいと思います。

演出・池田宏
チャッピーの頃になると、演出に熱が入らなくなっていました。
同じ魔女ものということで内容がパターン化してしまったという事に加え、
社内の制作条件もあの時期は悪化していたんです。
アニメーションというのはライブアクションと違って、
絵描きが「これ以上描けません」となったら、それで終わりの世界なんです。
そうなったら、演出家はどうしようもない。
アニメの演出の成否は、アニメーターからどうやってプラスアルファを
引き出すかにかかっているんです。それが大丈夫だったのは「アッコ」の
初期まででしたね。結局、争議の途中で僕は演出から離れてしまったんですが、
潮時だったかな、と、今になると思うんですよ。

(チャッピーを最後にアニメの演出職から退き、東映の研究開発室に移籍。)

東映動画社内のスタッフは契約社員。故に毎月の給料や福利厚生・各種保険年金も
当然コストとなって上乗せされる訳で、劇場用作品の興行収入だけで賄えるような状況では
昭和40年代中盤以降、すでに無くなっていました。ならTVアニメに社内スタッフを回そう、としても
前述のようにコスト面で採算が取れない。東映動画は次第に袋小路に追い詰められていきます。
そして、ついに経営側と制作側とは全面対決に突入。
ことの起こりは1972年7月7日、会社側が東映の従業員削減を提示した事に始まります。
あくまでも合理化を推し進める経営側に反発し、組合側の労働争議は一層激化。
このあおりを受けることで東映動画も労働争議に突入。同年8月3日より東映動画スタジオは
臨時休業として閉鎖。これによって東映動画スタジオは一切の活動を停止し、機能不全に陥りました。
これが世に言う「東映動画ロックアウト」で、同年12月に解除されるまで機能停止状態は続く
ことになりました。この影響を受け飯島敬氏は東映動画を退社。多くの有能なスタッフが退社もしくは
他の事業に鞍替えするなど、混迷を極めていきます。のちにドラゴンボールZや聖闘士星矢のCDを
務めた森下孝三氏もこの時期、スタジオに入れなくなり、収入を得るために鉄道の線路整備の
仕事をして糊口をしのいでいた、と自叙伝で語っています。


結果として、当時製作放映されていた東映動画制作アニメに様々な支障が出始めます。
1973年公開予定の長編動画「パンダの大冒険(演出・芹川有吾)」
社内動画スタジオが全く使用出来なくなったため、東映動画史上初めて
「外注先で長編動画を制作する」という異常事態に陥ってしまいました。

登石雋一(東映動画・製作担当(当時))
パンダの大冒険を製作していたころの会社は、いろいろと運営上の困難が重なっておりまして、
正常な製作体制が組める状態ではありませんでした。争議の真っ最中で、
社内ではまったく作業が出来ず、いわば逃亡生活に近い形で、
高橋信也くんを作画監督として、会社外で外注を頼りに製作したものです。
原画は主に大工原さんに描いてもらいましたが、おいおい社内スタッフからも
協力を申し出てくれる方もあり、まあ、なんとか完成にこぎつけました。
パンダブームということもあって、興行的にも成功したわけです。(直営館観客動員数200万人)

TVアニメのほうは元々外注依存度が高くなってたという事があったものの、
やはり影響は少なくありませんでした。何しろ司令塔たる東映動画スタジオが止まってしまったのですから。

「デビルマン(1972・NET)」では第7話の尺が足りなくなってしまい、仕方なく前話(第6話・ロクフェルの首)
ダイジェストを冒頭に入れるという緊急措置を施す羽目になり(無論7話は6話と何の関連性も無い)
「マジンガーZ(1972・フジ)」では外注先に密な連絡が行き届かなかった弊害で、作画設定や固有名詞が
前後編なのに異なってしまうという単純ミスも。(第1話と第2話)スタッフも本来予定していた中心的な演出家が
ロックアウトの影響で使えず、やむを得ず管理職となったベテラン演出家が一時的に復帰し現場を支える
という事態に。チャッピーも例外ではなく、当初参加していた飯島敬(企画)がロックアウトの余波で退社後、
NETの宮崎慎一プロデューサーがフォローに回る形で制作は続行。以降、東映動画労組委員会長だった
設楽博を除いて、かつてのベテラン勢が機能しなくなったローテ演出家に替る形で、
チャッピーに軒並み参加しています。



行楽・旅行話のやたら多い理由 そして異端のエピソード群
そんな混乱期のど真ん中で制作されただけに、
従来のシリーズには無い傾向がチャッピーには見受けられます。
通常のシリーズならメインキャラとレギュラー陣を中心に、
住む街を舞台にストーリーが進行していくものなのですが、
1クール目終了以降、やたらチャッピーが旅行やレジャーに行く話が頻繁に描かれていきます。
やれ旅行先のホテルで幽霊にあっただの、日本アルプスに旅行に行った先で妖怪騒ぎに遭うだの、
無人島旅行に参加したらインチキツアーだったの、玉下駄村に怪獣が出たらしいから見に行こうだのと、
よくあっちこっち遊びに行くなぁ、と見てて思ったものです。

実はこれには理由があって、やはりロックアウトの影響。
演出のローテーションが組めきれないという環境下にあったため、
ゲスト演出家を多量に招かざるを得ず、
故に一話完結でシリーズ構成の面から他の話に影響を与えない、
所謂「ボトルショー」なエピソードで制作するしかなかったという事情が
色濃く反映した結果です。当時の東映動画のTVアニメはCD制を採用しておらず、
(東映動画初のCD制採用は1973年の「ドロロンえん魔くん」。)
全体のカラー統一を図る役職が不明瞭な状態だったことも一因でしょう。
脚本家も特撮・刑事ドラマで有名な長坂秀佳氏が後半のエピソードを複数話執筆するなど、
魔女っ子シリーズ初参戦のスタッフが急遽参加しており、
苦しい台所を支えてくれていました。

魔法使いチャッピーの思い出/脚本家・長坂秀佳
「チャッピー」を書いた頃は、ちょうど5年間在籍していた東宝のテレビ企画課を辞め、
仕事を開拓するためになんでもやっていた時期だったと思います。
「刑事くん」や「帰ってきたウルトラマン」の脚本を書いてはいましたが、
どちらもメインではなかったし、仕事の枠を拡げたくて出版社の紙芝居なんかも書いていましたね。
刑事くんで知り合った東映の平山亨氏から「NETの宮崎慎一氏がライターを探している」と聞き、
早速紹介してもらったのが「チャッピー」参加のいきさつだったと思います。
自分としてはやる以上、それまでのメインライターにとって替るくらいの気概はありましたね。
最終的に4本仕上げ、2本ずつ2回に分けて宮崎さんに渡しました。
自分にとって、それまで一冊のシナリオを通すということは、
プロデューサーとの闘いの連続を意味していました。
ところが「チャッピー」では揉めた記憶が一回も無いんです。
あの作品の細かい内容が思い出せないのは、そのせいもあるかも知れません。
もっとも、家を壊そうが、予算を一切気にしないで書けるという点では、結構面白かったですが。

ちなみに、長坂氏同様に途中参加し、9本を執筆した脚本家・夏目幸治氏ですが、
どうもこの方、複数のスタッフらによるペンネームだったという話。
やはり現場は相当苦しかったようです。

そんなチャッピーですが、そんな混迷した制作環境故に、
魔女っ子アニメらしからぬ異質かつ異端のエピソードが頻発するようになりました。

第22話 イルカの楽園
チャッピーはクマトラの紹介で、クマトラの親戚がいるイルカ島に遊びに来ていた。
そんな一行をイルカのシロが歓迎して出迎える。そこを傍若無人に横切る巨大ヨット。
船の名はドルフィン号。イルカを捕獲し妙な実験をするボルマン博士の船だという。
ほどなくして、沖の向こうで閃光とともに巨大なキノコ雲があがった。あれは核爆発!
爆発地点には船の残骸と、生き残った漂流者がいた。爆発原因は不明…。
やがてイルカのシロがドルフィン号に捕獲されてしまった。怒ったチャッピーは追跡し
ドルマン博士の研究所に潜入。隠し部屋を発見し、中に入ると一人の科学者が
捕われていた。ドルマンの野望を知った為、監禁されているという。
その野望とは、イルカが音に近づく習性を利用して、小型原爆をセットしたイルカを
海に放ち、目標の艦船を撃沈させ制海権を統べるという恐るべきものだった。

チャッピーは一計を案じ、イルカの閉じ込められていた海中の柵を切断。
救出したイルカの大群をドルフィン号にむけ一斉に放つ。
原爆イルカだと錯覚したドルマン博士は動揺し、逃げまどっていたところを捕まえられ、
悪魔の原爆イルカ作戦はここに潰えたのだった。

とても魔女っ子アニメとは思えない話。原爆を使う悪の科学者と魔女っ子の対決って、
これが「仮面ライダー」で敵が「ショッカー」なら全然不自然な話じゃ無いんですが、
月曜夜7時の少女向けアニメでこの話。異色も異色。一応魔女っ子アニメらしく
オチはほのぼのとした感じで締めてはいますが、話の内容そもそもが…ね。

第32話 あこがれの京都
チャッピーたちはみち子のお客さんである少女リリー、従者のマリーと共に
京都に旅行に行く事になった。実はリリーは資産家の娘で、
祖母の100万ドルの遺産が相続される事になっていた。
遺産を狙う親類たちは「リリーが死ねば遺産は我々のモノ」と考え、
暗殺者を使い、リリー抹殺のための行動を開始していた。
京都の名所巡りをするリリーに幾度となく襲いかかる危機。が、
その都度チャッピーの魔法によって救われる。しかしどうしてリリーの行動が筒抜けなのか?

実はマリーも暗殺者の仲間。リリー殺害の為に彼らと結託していたのだった。
業を煮やしたマリーは暗殺者らと合流。一同が琵琶湖に来たのを見計らって一気に攻撃にかかる。
ボートに乗るチャッピーら目がけてマシンガンを乱射するマリー!
しかしチャッピーは魔法で大ムカデや大イタチを出し、
暗殺者を退治。マリーは警察に追い詰められ、拳銃で抵抗を図る。が、
暴発した拳銃の弾丸がマリー自らを撃ち抜いてしまう。
マリーは負傷し倒れるが、リリーはマリーを助けるために輸血を行う。
マリーはリリーの優しさに涙し、改心するのだった。

これも魔女っ子アニメとは思えない話。遺産をめぐって暗殺者が少女を殺そうと
つけ狙う話なんて、30分アニメじゃなく2時間ドラマの範疇でしょうに。
しかも真の敵はずっと傍にいて演技を続けていた…なんて、これも
魔女っ子アニメの路線を逸脱した鬼気迫る設定。最後は報いと言うか、
暴発した弾丸で出血多量になったマリーをリリーが輸血で助け、双方和解という
オチも2時間ドラマ的。児童向けアニメでこの展開はイイんでしょうか?
ケンカして仲直り、みたいなモンとは次元が違いすぎると思うのですが。

第34話 出たよ出ましたチャンバラ時代
チャッピーの町の町会長選挙が行われる時期が来た。
しかし、町の大人たちは選挙に一切興味を示さず、投票にも行かない。
「誰が町会長になったって同じだよ」と、とりつくしまも無い有様。
結果、人野良造という人物が当選、新町会長となる。が、この男、
元ヤクザであり、自分勝手な条例や決まりを一方的に次々決め、
町を自分の独裁で統べてしまう。贈収賄は推奨され、町会費は莫大に跳ね上がり
町中の人は悪辣な良造の政策に悲鳴を上げ始める。
人々は選挙に無関心だった事を後悔するが、もう遅かった。
町は人野の率いるヤクザ共が傍若無人に暴れる無法地帯と化してしまった。

人野は「ペットショップなど無駄だ。動物を全部処分しろ」と命令し
ドンちゃんも捕えられ処分されそうになる。チャッピーは一計を案じ、人野に魔法をかける。
気づくと町全体が江戸時代、人野は下手人として捕えられて御白州に。そこに現れた遠山のチャッピー。
数々の悪行の報いとして磔の刑を言い渡す。驚愕した人野らは
会長職を投げだし、町を逃げていくのだった。

さながら政府広報の「選挙に行きましょうキャンペーン」云々を思わせる内容。
魔女っ子アニメのエピソードとして相応しいテーマかはさておき、インパクトはあります。
実際、町会長にどれだけの権限があるのかはさておき、作家(長坂秀佳)は
「政治に無関心ゆえ、独裁者に蹂躙される市民」というのを描きたかったんでしょうねやっぱ。
オチが遠山の金さんというのはやや弱いような気もしますが、政治を
リアルに描くと爽快感の無いものになっちゃうから、ここは児童向けに
単純明快に努めて配慮した、といった感じでしょうか?


初期クールの目指した「魔法少女ものの原点回帰」という路線は
回を追うに従って次第に薄まり、中盤以降は社会問題告発を押し出したような硬質な話が
随所に見られるようになりました。公害・自然破壊・狂乱物価・贈収賄汚職etc…
ゲストにギャングや犯罪者、ヤクザや悪徳業者などがやたら見られるようになり、
原点回帰はどこへやら。もっとも、今になって見ればこの混沌加減が
チャッピーの特色のひとつにもなっているのですけれど。

  

残酷かつ哀しみ残る最終回
ロックアウトによる現場の混乱、ローテーションの不安定さ、スタッフの離脱等々、
さまざまな災難に巻き込まれた結果、決して満足な制作状況とは言えなかった「チャッピー」。
とは言え視聴者の反応も良く「マコちゃん」以降平均8.9%と低迷していた視聴率も
14.3%と驚異的な伸びを見せ、当初2クール26話で終了予定が1クール分の延長が決定。
全39話の作品として完結します。東映動画のロックアウト解除は12月なので、
結局チャッピーは最後までロックアウトの影響を受け続ける羽目になったわけですが、
そんなチャッピーの最終回はこんな話。

第39話(最終回) チャッピーどこへいく
チャッピーたちはみち子らと山に遊びに行きました。
その先で急に嵐が起こり、チャッピーらは山小屋に避難しますが
あまりの暴風雨で戸が開いてしまいます。
一平は戸を押さえる丸太を探しに嵐の中に飛び出していきますが、外は大嵐。
丸太を見つけたものの、チャッピーの目前で一平目がけて落雷が!
とっさにチャッピーは魔法を使い、一平を落雷から救います。危機は脱したものの、
自分が魔女であることが一平にバレてしまいました。

帰りの電車内で「チャッピーちゃんが魔女でもあたしたちは友達よ」と励ますみち子、しず子ら。
とはいえ人間に魔法を使うところを見られたという掟破りをした事は事実。
このままでは済まない。人間に正体がばれた魔法使いは裁きを受けねばなりません。
しきたりと掟を重んじる魔法国の裁き、下手したら家族全員…。
そんな折、息子の一平を助けてもらったお礼にと、親の洗吉がチャッピー宅を訪れます。
一平は無邪気に「チャッピーに魔法で助けてもらった」と洗吉に話したと言います。
洗吉はまともに取り合わなかったものの「もし魔法使いなんてぇモノがいたら
取っ捕まえてテレビに出演させりゃ、たんまり出演料が頂ける」
と、冗談交じりに言う始末。
このままでは街中に噂が広まるのは時間の問題でした。

悩み苦しんだ挙句、チャッピーは両親に手紙を書きます。
それは遺書でした。このままでは私のせいで家族に迷惑がかかる…と
チャッピーは自殺を決意。海に入水していきますが、寸前で両親に助けられます。

家族がチャッピーを励ましますが、このままだと事態は悪化するばかり。
意を決して、チャッピーは魔法国の王様に謝罪に行きます。
「パパとママたちには何の罪もありません。罰を受けるのは私だけに…」
王様は言います。「魔法使いと人間が幸せに暮らしていくには掟は必要なのだ。
しかし落雷から友達を救った事、 それ自体は決して間違ってはいない」
と。

王様はチャッピーの一家全員、魔法の国で一日謹慎の罰を与えます。
ほっと胸をなでおろすチャッピー。最後に王様は言いました。「後の事はワシに任せておけ。」
この言葉の意味…両親はすべて解っていましたが、まだ幼いチャッピーは知る由もありません。

翌日、謹慎が明け、人間界に戻った チャッピーは
みち子や一平に会いに行くのですが…
「なんだお前?」「誰?あんたなんか知らないわ?」と、けんもほろろ。
しず子も訝しげに「誰よあなた?怪しい子ね?」と門前払いに。
みち子も一平もしず子も、街中の人間全員、王様によってチャッピーらに関する
記憶をすべて消されていたのです。ショックを受け途方に暮れるチャッピー。

もう、この街に居場所は無い…。意気消沈するチャッピーをジュンやドンちゃんが慰めます。
意を決し、チャッピーは最後の魔法を使います。
夜空に、かつて仲良しだった頃のみち子や一平、しず子ら友達の幻影が
浮かび上がりました。みんな友達だった頃の楽しい想い出…。

チャッピーらは幻影のみち子らに手を振って別れを告げます。
両親はチャッピーの肩を抱き、言います。
「さあ、行こう。」
「次の街で新しい友達が待っているわよ。」
「…ええ…。」
チャッピーは街での楽しかった思い出を振り切るように答えます。
そして一家は別の街へと旅立っていくのでした。

正体バレたら魔法の国に帰る…というのがある意味王道なのですが、
本作品はさにあらず。一話から築き上げてきた人間関係をすべて
無かった事にされる、という、ある意味強制送還より残酷なオチが
用意されていたのです。シリーズ通してあんなに仲が良かったのに、
最終回でさも不審者を追い払うように振る舞うみち子やしず子の姿は
子供心にすごく残酷な光景に映りました。いくら一切の記憶を
消されたとはいえ、あんまりじゃないか、と。
ただ、「魔法使いなら捕まえて見世物に」という洗吉の言葉も
哀しいかな人間の醜い本音でもありまして。そう考えたら、魔王様のリセットは
最善の策…なのかも知れません。おそらくこのオチは2クール・26話終了予定で始まった当初より
決まっていたラストだったように思います。チャッピーを自殺未遂まで追い込む情け容赦のない展開は
多くの過酷なエピソードを手掛けてきた辻さんらしい話、といえばそうなのですが。
にしても、チャッピーが放った最後の魔法が、
友達だった頃のみんなの幻影に別れを告げる事…って、あまりに哀しすぎませんか?
バックに流れる挿入歌「魔法のワルツ」が涙を誘います。

番組ラストで旅立つチャッピーが視聴者に呼びかけますが
「どこへ行くのかって?きっとあなたの町へよ。」と言われても…。来たら
「あんた、前の街では大変だったねぇ。」と言ってあげたほうがいいのでしょうか?


参考資料
東映動画長編アニメ大全集上巻・下巻(昭和53年9月1日・12月1日発行・徳間書店)
魔女っ子大全集東映動画編(平成5年8月20日発行・バンダイ)
生きているヒーローたち 東映TVの30年(1989年12月16日発行・講談社)
懐かしのTVアニメ99の謎 東映動画編(1995年10月25日発行・二見書房)
懐かしのTVアニメベストエピソード99 東映動画編(1995年10月25日発行・二見書房)

魔法使いチャッピー 制作スタッフ

製作担当/江藤昌治
企画/飯島 敬
プロデューサー/宮崎慎一
美術/山崎 誠
制作進行/豊島勝義
音楽/筒井広志
OP/魔法使いチャッピー(作詞・小薗江圭子/作曲・筒井広志/唄・シンガーズ スリー)※テロップではスリーシンガーズ
ED/ドンちゃんのうた(作詞・小薗江圭子/作曲・筒井広志/唄・富田耕生)

放送No放送日サブタイトル脚本 演出作画監督
1972.4.3魔法家族がやって来た辻 真先芹川有吾高橋信也
1972.4.10怪獣ちゃんもお友達!! 滝 三郎勝田稔男端名貴勇
1972.4.17パパはナニ屋さん雪室俊一池田 宏永樹凡人
1972.4.24男の意地くらべ辻 真先佐々木勝利荒木伸吾
1972.5.1ドンちゃんの妹辻 真先明比正行小田克也
1972.5.8ママがとられた城山 昇葛西 治細田輝男
1972.5.15栄光への500メートル※1辻 真先金子充洋永樹凡人
1972.5.22魔法の国に帰さないで安藤豊弘 大谷恒清阿部 隆
1972.5.29狙われたバトン※2吉野次郎久岡敬史端名貴勇
101972.6.5幻のD51城山 昇芹川有吾荒木伸吾
111972.6.12三ツのお願い城山 昇勝田稔男木暮輝夫
121972.6.19お婆さんの意地くらべ辻 真先佐々木勝利高橋信也
131972.6.26パパの日記帳辻 真先山本寛己小田克也
141972.7.3民宿お化け騒動辻 真先明比正行端名貴勇
151972.7.10すてきな一日園長押川国秋池田 宏永樹凡人
161972.7.17魔の山の少女夏目幸治葛西 治木暮輝夫
171972.7.24パパありがとう滝 三郎勝間田具治荒木伸吾
181972.7.31無人島冒険ごっこ辻 真先久岡敬史細田輝男
191972.8.7赤ちゃん泥棒夏目幸治山本寛己永樹凡人
201972.8.14こんにちわフェニックス辻 真先勝田稔男高橋信也
211972.8.21ホームラン番長辻 真先芹川有吾端名貴勇
221972.8.28イルカの楽園夏目幸治田中 清高橋信也
231972.9.4祭りだワッショイ辻 真先大谷恒清木暮輝夫
241972.9.11逃げだした悪魔小川敬一田中 清永樹凡人
251972.9.18ドンちゃんの虹吉野次郎田中 清平野 純
261972.9.25空とぶ自転車辻 真先永樹凡人上村栄司
271972.10.2ドンちゃん大洪水※3辻 真先岡崎 稔端名貴勇
281972.10.9独立!ガラクタ公園長坂秀佳寒竹清隆木暮輝夫
291972.10.16動物の王子さま夏目幸治島田 稔田島 実
301972.10.23待っていてオッタマゲター!長坂秀佳大貫信夫上村栄司
311972.10.30最高殊勲婆さん夏目幸治岡崎 稔端名貴勇
321972.11.6あこがれの京都夏目幸治芹川有吾平野 純
331972.11.13リンゴ村リンゴりんご大作戦!長坂秀佳勝田 稔
寒竹清隆
木暮輝夫
341972.11.20出たよ出ましたチャンバラ時代長坂秀佳古沢日出夫石黒 育
351972.11.27お金と友情夏目幸治宮崎一哉白川忠志
361972.12.4ジャンプだ!四回転ウルトラC辻 真先岡崎 稔端名貴勇
371972.12.11さようなら雪ん子夏目幸治大貫信夫上村栄司
381972.12.18想い出のクリスマス夏目幸治明比正行江藤文男
391972.12.25チャッピーどこへいく辻 真先田中 清端名貴勇

※1昭和47年(1972)7月16日公開の東映まんがまつりの1本としても公開された。
※2この回のみ、野村道子さんがチャッピーを演じている。
※3この回のみ、神山卓三さんがドンちゃんを演じている。

キャスト


チャッピー(増山江威子・野村道子)
ジュン(千々松幸子)
ドンちゃん(富田耕生・神山卓三)
パパ(矢田耕司)
ママ(渡辺典子)
オババ(津田延代)
ジイ(富田耕生)
荒井みち子(小串容子)
一平(白川澄子)
二平(野沢雅子)
中村しず子(渡辺典子)
荒井洗吉(永井一郎(第3話のみ)・槐柳二)
熊沢虎男{クマトラ}(白川澄子)※16話から登場。
ほか



というかんじでお届けしました記憶86回目。
今年は更新多いなぁ。こうなったのは昨今の社会状況の側面もありますが
来年は普通に生活できる世界になってほしいと願うばかりです。
それでは次回。




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