看板

今から40年以上昔。世のチビッコたちは外国の高級スポーツカー(所謂スーパーカー)に
夢中のホの字でした。そんなブームが大爆発する直前の時期、
突然ブラウン管(死語)に颯爽と現れた「きょういのスーパー・マシン」が今回のお題。

マシンハヤブサ

1976年4月2日〜9月17日 全21話
NET(テレビ朝日)系放映・製作 東映動画




望月三起也とダイナミックプロと東映動画のトリプルタッグスーパーカーアニメ

あらすじはこんな感じ。

突然レース界に現れた謎の組織「ブラックシャドウ」。
魔王エイハブ・モビルディック率いるこの凶悪なる集団は、
超絶なるマシンと残酷非道なレーサーたちで固められており、
レース場で悪辣非道の限りを尽くし、
またたく間にレース界を席巻してしまった。無法地帯と化したレース界。
多くのレーサーたちの血で染まっていくサーキットに、突如殴り込みをかけてきた集団がいた。
その名は西園寺レーシングチーム。西音寺洋輔博士率いる彼らは
ブラックシャドウのマシンに勝るとも劣らないマシンスペックとテクニックを有している。
そのチームの一人・隼剣は、兄の仇でもあるブラックシャドウを壊滅させるため、
換装型のキャバリーエンジンを搭載したマシンハヤブサを駆って、
敢然と無法のサーキットに挑戦する。
勝つのはブラックシャドウか?マシンハヤブサか?

週刊TVガイド春の新番組紹介記事
キミの新しいともだちを紹介しよう。
天才レーサー・隼 剣だ。
父と兄をブラックデビル(原文ママ)に殺され、
その復讐のために隼号に乗って
世界一のレーサーを目指しているのだ。

隼号を紹介しよう。
超高性能エンジン"キャバリーエンジン"を持ち、
ガソリンは無公害超ハイオクタン"ドリーモイル"だ。
彼のすごいテクニックが楽しみだぞう。

(週刊TVガイド1976年4月2日号)

基本ストーリーはマシンハヤブサと西園寺チームのマシンたちが、
毎回毎回ブラックシャドウの送り込む凶悪すぎるマシンと
特殊すぎるレース場でムチャクチャすぎるカーレースを行うというもの。
敵側も催眠音波を発射してきたり小型ミサイルを撃って来たり
クラッシャーでタイヤ削りに来たり、挙句ドライバーにロボット鳥を撃ち込んだりと、
レースを何と心得るかと言わんばかりの悪辣攻撃の連続。
それをマシンハヤブサが超絶テクで交わしたりマシンの高性能でいなしたり、
最後は敵が自滅したり特殊コースの罠に自ら落ち込んだりで決着。
そも決戦の場であるサーキット自体が「大蟻地獄サーキット」だの「地雷砲サーキット」だの
「活火山火口底サーキット」だの、レース云々より人間が生きていられない場所。
そこをティレルマシンでレースしようってんだから無茶もいいところ。
この滅茶苦茶さ&荒唐無稽さが「マシンハヤブサ」の醍醐味なのです。ハイ。


本作品は「ワイルド7」「ひみつ探偵JA」で知られる漫画家・望月三起也とダイナミックプロ、
そして東映動画のトリプルタッグという豪華なスタッフによるアニメで、
望月キャラがTVアニメになって登場したのはこれが初。
(セルに描かれてアイキャッチに使用された「ワイルド7(1972〜73・国際放映)」
パイロットのみに終わった「ケネディ騎士団(1967・エイケン)」は過去ありましたが)
メインキャラクター(西園寺チーム)の面々を望月氏が、ブラックシャドウ側のキャラとメカをダイナミックプロが、
そしてメインメカ(マシンハヤブサをはじめとする主役側のメカ全般)をスポンサーのポピー(村上克司氏)
手がけています。それ故、非常に解りやすいです。西園寺博士などモロ望月キャラ。痩せたヘボピーみたいです。


ヒロインの西園寺さくらも御覧のように、この肉感あふれる唇はまさしく望月女性キャラ。
もっともアニメになると望月度は薄らいでしまった感がありますが。


一方のブラックシャドウ側も御覧のように、
悪の秘密結社の本拠はさながらDr・ヘルのアジトかミケーネのたたずまいで、
次々開発されるレースカーはまるで機械獣。指令を果たせず失敗したレーサーは
容赦なく処刑されるといったところも悪の秘密結社そのまんまのノリですね。

「僕としてはかなり面白がって作ったんですけど(笑)」
これは演出を担当していた芹川有吾氏のインタビュー発言ですが、
本作品にはスーパーロボット物とは違ういろんな要素が加味されていました。
ひとつは「正統派ライバル」。基本ブラックシャドウは「目的の為なら手段を選ばない」
卑怯と邪道のオンパレードたる凶悪集団なんですが、そんなブラックシャドウの契約レーサーの中に
登場する好敵手が流れ星の竜(声は若本紀昭{現・若本規夫})。卑怯な策略や騙まし討ちを嫌い、
正々堂々たるドライビングテクニックで隼剣に勝とうとした好敵手です。
第12話で初登場し、初戦で隼剣にシリーズ初の黒星をつけた実力者。
その後第17話で再登場し、新機能「クイックコーナリングホイール」(説明は後述)搭載車マシンXで
再びマシンハヤブサに勝利。
しかし彼は「同じ新機能をマシンハヤブサが持っていたら、俺は本当に勝てたのか?」と自問自答し、
結果、組織に内緒でクイックコーナリングホイールの設計図を剣に譲渡。
「同じ条件で、純粋にドライビングテクニックの勝負を挑みたい!」と再戦を挑むのです。
これに西園寺博士は「俺をなめるんじゃねえぞ!」と奮起。V4エンジンの完成に邁進することになるのですが…。

いや、コレはまさにスポ根のライバルそのものの描写です。
結果として18話、クイックコーナリングホイール・マシンX対
V4エンジン・マシンハヤブサの激闘が描かれるのですが、
ブラックシャドウが運転中の隼剣に監視用のロボット鳥をぶつけて
妨害しようとした事から悲劇が始まります。卑怯な事を嫌う竜はこの事に気付き、
隼の身代わりになってロボット鳥の前に立ちふさがり、
左胸にロボット鳥の直撃を受けてしまうのです。先行していたマシンXは途端に減速。
チェッカーフラッグはマシンハヤブサに。勝利を不審に思った剣がマシンXのコクピットを見ると、
ロボット鳥に胸を貫かれ、事切れた竜の姿が…。竜の死を悼むとともに、
ブラックシャドウの非道な振る舞いに怒る剣は、闘志を新たに誓うのです。

スポ根ものでも好敵手が死ぬことはよくあるのですが、
本作はスーパーロボットものの延長線上にあるという事もあって、
スポ根のライバル関係に悪の秘密結社の非情な掟を加味する事が出来ました。
ゆえにこういう演出が出来たのも「マシンハヤブサ」ならではと言えるでしょう。

もう一つは「ヒロインのお遊び」。男の子向けスーパーロボットものでも度々ある
「ヒロインいじりエピソード」ですが、
マシンハヤブサにも当然ありました。
新型マシン「さくら号」の登場する第8話「さくら号発進せよ!」がそれですが、
このエピソードは全編おふざけとギャグの連続。スタッフの悪ノリ加減が素晴らしいです。
舞台はコースの途中、地形的理由で燃料補給が一切出来ないデッドバレーのレースに対応するため
(そんなところをレース場に選ぶほうが間違い)、空を飛び、走ってる車にホースを伸ばして
空中給油が可能なマシンを設計する事に
なったのです。それがさくら号。この話は西園寺さくらが操縦するさくら号が完全に主役で、
ガンテツやカミカゼをテストコースで手玉に取るシーンや、燃料危機のハヤブサに空中給油を施すシーン、
最後は空になった燃料タンクをブラックシャドウのタンクローリーに爆撃よろしく投下して破壊したりと、
もうほとんどやりたい放題の30分。…当然の事ながら「さくら号」は空を飛びまわってる以上、
飛行機認定を自動車協会から受けてしまいレース出場資格は無い、という
ギャフン(昭和の死語)なオチもまた効いてます。



スーパーロボットアニメの後継者・マシンハヤブサ?

「ロボットに替わって人が乗りこなすメカ、そういう発想だったと思うんだけど。」
これは、企画時のプロデューサー・高見義雄氏がマシンハヤブサを回想して語った言葉です。
この言葉からも解るようにこのマシンハヤブサは、「スーパーカーアニメ」としてではなく、
言わば「スーパーマシンアニメ」として制作された作品です。よく資料などで
「スーパーカーブームに乗って制作された」などと
言われることの多い本作ですが、スーパーカーブームが本格化するのは1976年の秋頃。
マシンハヤブサの放映当時はまだブームは顕著ではありませんでした。
(スーパーカーブームの起爆作・「サーキットの狼」の連載は始まっていましたが)



むしろこの「マシンハヤブサ」は「マジンガーから連綿と続くスーパーロボットの次を担う、
いわば「あしたのためのその1」と言った具合で、ポピーの村上克司が本格的にアニメの劇中メカニックデザイン
(しかも主役マシン)に進出した最初期の作品でもあります。
本作品以降、玩具会社がメインメカのデザインをする事が多くなった訳ですが、
一説によればマシンハヤブサは
「ポピーの主力商品のひとつ、ポピニカのブランドの充実性を計るために上げられた企画」
とも言われています。ゆえに本作品は放送期間が比較的短いにもかかわらず、
主役メカを含む西園寺レーシングチームのマシン全て
(さくら号もラインナップに入ってたものの結局未発売)に加え、
移動基地たるビッグキャリーも商品化。結果的に番組も商品もヒットとはいかなかったものの、
これ以降、玩具メーカーデザインによるアニメマシン&ロボットは市場に氾濫していくことになります。





今尚語り草のエンジン開発エピソード

マシンハヤブサを語る上で欠かすことの出来ないのが「エンジン開発エピソード」で、
ハヤブサの話になると必ずコレが話題に上がります。第一話の時点でハヤブサに装備されていた
キャバリーエンジンはV1とV2のみ。基本この2つのみで10話まで戦い抜くのですが、
11話で遂に新たな超強力エンジン・禁断のV3エンジンに着手します。
禁断、というのはこのエンジン、馬力は凄まじいシロモノなのですが、
一定のトルク回転数(13000〜14999回転)になると不整域になり、
途端に不安定かつ制御不能状態に。この時にエンジンが止まると大爆発を起こしてしまうのです。
剣の父である隼博士もこのV3エンジン開発中に爆発事故で死に至ったため、
永らく「禁断のエンジン」とされていましたが、
次第に強力になっていくブラックシャドウのレースカーに対抗するために、
西園寺博士はついに封印を解きV3エンジンの完成に乗り出します。
問題はトルク回転上昇中にどうしても突入しなければならない、13000〜14999回転の不整域。
エンジンは不安定になり、操縦もままならない状態に。
ここでコースアウトでもしてエンジンが止まれば即、大爆発!剣は不整域のV3エンジンを必死に操縦します。
そして、ついに達した15000回転!エンジンから吹き出る鮮やかなエメラルド色の炎!
ついにV3エンジンは完全に起動し、ブラックシャドウのレーシングカーをまたたくまに蹂躙します。
父が挑んでたどり着けなかった脅威のV3エンジンは今、ここに完成したのです!

しかしブラックシャドウのレースカーは益々強力化。
ヘアピンカーブが連続するカラコルム山脈レースにて、ハヤブサはブラックシャドウ開発の
「クイックコーナリングホイール」を搭載した新レーシングマシンに完敗。
左右のタイヤホイールが瞬時に拡大&縮小する事でスピードを落さず
ヘアピンカーブを走り抜けられるという(ンなアホな)敵の新性能に対抗するため、
西園寺博士は新型V4エンジンの開発に着手するのです。
エンジンの左右から交互に噴射&逆噴射を繰り返すことで、
コーナー直前で加速をすればするだけ威力を増すという(ンなアホな)V4エンジンは遂に完成。
コーナリング対決を辛くも制します(このエピソードは前述のように、ブラックシャドウ側のレーサーが、
最後は剣を庇って死んじゃうという悲しい話なんですけどね)



ブラックシャドウとの激闘・その結末

さて、そんな壮絶なるV4エンジン誕生から僅か3話後の第21話でマシンハヤブサは最終回を唐突に迎えます。

最終回はブラックシャドウのボス・魔王エイハブ御自らが西園寺チーム・マシンハヤブサに挑戦状を
叩きつけるところから始まります。この最終決戦の挑戦状を受けた西園寺博士は、今までのV1〜V4エンジン
すべての性能を併せ持った究極の「V5エンジン」を密かに用意。使う事を決断します
(いきなり究極エンジン登場。まあ最終回だし)。そして魔王エイハブの正体も明らかになります。
エイハブの本名はベニー・クレーマー。かつて天才レーサーとして世間に名を知らしめた逸材でしたが、
殺人レースを繰り返したためにレース界から永久追放された因果な男。
いよいよ己の存在をかけての大一番!…まあ結果から言えばV5エンジン搭載のハヤブサがレースに勝利。
エイハブのマシンはゴール直前に爆発し敗北します。
自らの敗北を悟ったメフィスト教授は手に持ったワイングラスをコンソールパネルに投げつけ、
コンピューターは爆発。ブラックシャドウの本拠は瞬く間に炎に包まれ消滅します(脆いのね)
西園寺チームは遂にブラックシャドウを倒したのです。栄光のチェッカーフラッグはマシンハヤブサに!
…なんですが、やはり今見ると最終回はやや性急に過ぎるというか、突発的な印象が否めません。
最終回で首領自らが勝負を挑んできたり、負けたら即、敵の本拠が炎に包まれたりと、
なんとかこの回で終わらせないと、といった焦りのようなものが見えるのは私だけでしょうか。

※参考資料
週刊TVガイド1976年3月〜9月
懐かしのTVアニメ99の謎 東映動画編(1995年10月25日発行・二見書房)
懐かしのTVアニメベストエピソード99 東映動画編(1995年10月25日発行・二見書房)



マシンハヤブサ スタッフ
原作/ 望月三起也、ダイナミック企画(「月刊少年ジャンプ」 「テレビランド」「てれびくん」)
企画/山口康男
プロデューサー/萩野隆史(NET)
製作担当/岸本松司
キャラクターデザイン/香西隆男
メカニックデザイン/辻忠直
美術デザイン/伊藤英治
美術/遠藤重義・勝又激・伊藤英治

音楽/筒井広志
OP/ダッシュ!マシンハヤブサ(作詞・保富康午/作編曲・すぎやまこういち/唄・水木一郎・コロムビアゆりかご会)
ED/グランプリ・ブギ(作詞・保富康午/作編曲・すぎやまこういち/唄・水木一郎)


マシンハヤブサ 放映リスト

放送No放送日サブタイトル脚本演出作画監督
1976.4.2走れ!栄光のマシン 辻真先芹川有吾小泉謙三
1976.4.9アルプス大爆走 雪室俊一新田義方谷沢豊
1976.4.23恐怖!地獄の鍾乳洞レース久保田圭司山口秀憲森利夫
1976.4.30魔王エイハブの謎 久保田圭司芹川有吾森下圭介
1976.5.7ゴーストタウン 爆破サーキット辻真先岡崎稔香西隆男
1976.5.14必殺!ブラックインパルス雪室俊一笠井由勝田島実
1976.5.21カリブ海 黒ダイヤサーキット久保田圭司奥田誠治宇田川一彦
1976.5.28さくら号 発進せよ! 辻真先芹川有吾小泉謙三
1976.6.4魔のアフリカ ロード・レース 久保田圭司新田義方新田敏夫
101976.6.18トルテカの迷宮レース辻真先笠井由勝田島実
111976.6.25エンジンV3誕生!雪室俊一山口秀憲森利夫
121976.7.2宿命のライバル 流れ星の竜久保田圭司岡崎稔鈴木欽一郎
131976.7.9片輪走行で突っ走れ! 雪室俊一芹川有吾小泉謙三
141976.7.16レースの道は剣の道辻真先奥田誠治
長谷川康雄
宇田川一彦
151976.7.30愛はサーキットの彼方に久保田圭司芹川有吾須田正己
161976.8.6野望の大草原猛獣レース久保田圭司笠井由勝谷沢豊
171976.8.13謎の試走車X1号久保田圭司笠井由勝富沢和雄
181976.8.20友よ聴け!エンジンV4 雪室俊一岡崎稔鈴木欽一郎
191976.9.3SOS! ハヤブサ視界ゼロ 伊東恒久森下孝三篠田章
201976.9.10走れカミカゼ!友情のゴール 辻真先芹川有吾小泉謙三
211976.9.17走れハヤブサ!勝利のチェッカーフラッグ 久保田圭司笠井由勝須田正己

キャスト
隼 剣(曽我部和行)
西音寺博士(永井一郎)
岩田 鉄次(水鳥鉄夫)
陸奥 悟郎(大竹宏)
神風 弘(山本圭子)
大和 新伍(矢田耕司{1〜6話}肝付兼太{7〜21話})
西音寺 さくら(吉田理保子)
エイハブ・モビルディック(大竹宏)
流れ星の竜(若本紀昭)


と、なんとか終了。
次回は年末までに更新できればいいのですが
なにぶん流動的なもので。
過去ページの修正作業とかも残ってるし…。
では次回。

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