看板

随分間が空いてしまいましたが、久方振りの更新です。
もう42回。早いもんです今年も終わり。
出来れば今年中にあと1回は更新したいんですけど。
来年はは2007年ですが今回は2015年が舞台の
こちらがお題。この年はいろいろ暴走キャラの出る年のようで。

ジェッターマルス

(1977年2月3日〜9月15日 全27話) 
フジテレビ系放映・制作 東映(東映動画)

ジェッターマルス画像

70年代に甦った新時代のアトム
冒頭のの高揚たる前奏に乗って走り、踏みきって空に飛ぶマルスの悠々たる姿。
スティーブン・トートの舌足らずなあどけない歌い方の強烈さと相成って、
一度見たら忘れられないオープニングと共に記憶されている方も
多いであろうこの作品。誰がどう見ても「アトムのリメイクだろ」という意見が大半を
占めているのは間違いないのですが、それだけの作品ではありません。

まあ、手塚治虫原作、とありますが、手塚先生の原作マンガは存在しません。
マルスに関しては手塚先生はラフイラストくらいしか手をつけておらず、
純然たるテレビ企画として生まれた作品という事ができます。
あえて源流となった手塚原作というと、
1970年代初頭に小学館学習雑誌に掲載された新シリーズのアトムが
マルスの元になったと言えるでしょう。
このアトムは特撮テレビシリーズとして製作されることを前提としてつくられた
原作の仕切り直し版で、デザインもテレビヒーローらしく、ベルトにプロテクターといった
流行の70年代変身ヒーローっぽくされていて、派手になっています。
コスチュームも作られ、小柄な女優に着させた(!)スチール撮影までは
行ったのですが、製作には至らず頓挫。
この鉄腕アトムがもし実写映画としてオンエアされていたら、マルスの出番は無かったかもしれませんね。

美理。


マルスの生まれた複雑な背景
マルスは実は、生まれるべくして生まれた作品ではありません。
本来なら鉄腕アトムのカラー版として、純然たるアトムのリメイクを、
手塚プロも局も代理店もスポンサーも望んでいたはずです。
それがなぜ「マルス」となったのか?理由は70年代に手塚先生を襲った
様々な災厄、事件にありました。
1970年代に入ると劇画ブームに押されて手塚先生のマンガは古いと揶揄されることがおおくなり、
仕事のほうも不振が続き、低迷期に入ります。
そして、出版事業部にあたる虫プロ商事が倒産、次いで虫プロ社長も辞任、
そして、これがマルス誕生の本当の理由なのかもしれませんが、
身内の某氏が手塚先生の漫画の映像化の版権を
自分の所有にするという事件が発生。過去の傑作、名作を
映像化しても原作者・手塚先生には一文も入らなくなるという
異常事態を招くことになります。
結果として映像化して収入が得られるのは権利を売られていない
新作のみという事態になりました。
この事件は海のトリトン(72)製作前後に発生した事件の為、
以降、手塚先生は「海のトリトン」にトラウマが出来てしまったそうです。
信じていた身内に裏切られた事件の後遺症は
いかばかりのものか。直後に虫プロ倒産、
ブラックジャックや三つ目がとおるで復活するまで
手塚先生には辛い時期が続きました。

そんな先生の冠をつけて久々に登場した手塚原作アニメ作品が
「ジェッターマルス」だったのです。
なぜ、アトムではなくマルスなのか、という理由は
先に述べた権利問題の影響だということはおわかり頂けるかと。
オトナの事情という理由故、マルスは限りなくアトム風味を濃く残した同工異曲として
この世に生を受けたのです。いわば代用品。
故に当時のテレビガイドの新番組紹介でも
「アトムにソックリなマルス」と、まんまなこと書かれてます。悲しい。


心を持った戦闘兵器
では、マルスはアトムのリメイク以外に価値のないものだったかというと、否。
アトムとは異なる切り口で心の大切さ、本当の強さを説いた
傑作だったのです。
第一話からそれは露骨に表現されます。

2015年の日本の科学省で
最強の戦闘ロボットとして作られたマルス。
山之上博士によって与えられた
10万馬力の破壊力と
比類なき耐久性、
川上博士に与えられた
人間と変らぬ高性能の
電子頭脳を持って
マルスは誕生しますが
両博士の意見は対立。
戦闘メカとしてマルスを
使うべきと言う山之上と
戦闘のみのロボットなど
無意味と平和利用を
訴える川上。
生まれたばかりで
善悪の区別のつかない
マルスは、
山之上の言うがママに
戦闘力の実験場へ。
相手の実験メカを
類まれな破壊力で蹂躙。
(もともと兵器として
誕生しただけあって、
「壊すことなら負けないぞ〜!」
とか、
破壊活動を行った後に
「と〜っても、気分がいいや〜。」
といってみたり、この辺りが
純粋故のマルスの凶暴性を
良く表していますね。)

が、直後
「それは本当の強さではない。」と
マルスに諭す川上博士。
2人の正反対の産みの親の
指導の相違に戸惑うマルス。
マルスはこれから
どのようなロボットに
なっていくのでしょう?


マルス画像
第一話のシーンより。

























第一話の戦闘シーン。

産まれたばかりで善悪の区別のつかない強力兵器。
よく考えたらこんな過激な設定はありません。
笑いながら残酷なまでに相手のロボットをスクラップにしていく様は
可愛い外見とは違い、マルスが危険な兵器だという事の
描写として見事に表現されています。これは既に国民的キャラとなった
アトムでは出来ない表現と言えるでしょう。
そんなクラッシャーのマルスに対比するキャラが美理です。彼女は指から復元光線を出す
修理用アンドロイドで、マルスに優しさ、思いやりを諭すアドバイザーとして
登場します。
話は生まれたてのマルスが両博士の正反対の指導に戸惑いつつも、
様々な事件にかかわることで少しずつ「心」を身につけていくという
展開になっていきます。
(中盤で山之上博士が重力兵器の実験中に行方不明になってからは
初期のマルスの「ほんとうの強さってなんだろう」といった
疑問、葛藤の機会は多少抑えられますが。)

アトム同様、学校にも通いますし、(アトムの同級生、ケン一、シブガキもしっかり登場。
担任教師は伴俊作、ヒゲオヤジ先生!)
他のサブキャラとの交流によって、次第に人間らしくなっていきます。
(手塚先生漫画家生活30周年という意味もあってか、タワシ警部にハムエッグ、
ガロン、ランプ、犬のパトカーまでしっかり登場。)
シリーズは基本一話完結の事件発生・解決の体裁をとっていますが
随所に連続性のあるストーリーやキャラを配しているのも魅力。
特に24話から登場するアディオスは、最終回にもからんでくるキャラで、
ニヒルなキャラクターがマルスファンの間でも人気を集めています。


最終回の「心」
しかし、作品の評価は当時はあまり芳しいものではありませんでした。
平均視聴率は7.7%。期待されたほどの視聴率を上げることは出来ず、
27話で終了の運びとなりました。当時の視聴者の児童の見ていた
作品群は合体ロボットの激しいバトル物が中心で、そういう児童たちには
マルスは地味に映ったのかも知れません。
良心的な造りは視聴率には反映しなかったということでしょうか。
そんなマルスの最終回はこういう話。

ロプラス共和国の少年少女シンフォニーのメンバーが
移動中の飛行機をハイジャック。日本に進路を向けさせます。
目的はジェッターマルスに会うため。マルスと対面したシンフォニーメンバーの
リーダー、サリーはマルスに助けを乞いに来たのです。
自分たちのレコード(!)を渡し、話をしようとした瞬間、
突然ガス弾が!機動隊の突入で、
楽団員は全員逮捕されてしまいます。

事件後、ロプラス共和国の大統領が日本に来日。みな唖然。
ロプラスの大統領はロボットだったのです。というのも、ロプラスはクーデターが多く、
人間が大統領になってもすぐ暗殺されるので優秀なロボットを大統領に据えて
国の安定を図ったのだと言うのです。以降、国は静かで平和な国になったのですが、
大統領を狙うものはあとを絶たず、暗殺の刺客が時折やってくるのだと
大統領が言った刹那、大統領暗殺の刺客が現れます。
マルスは思わず仰天。その刺客はアディオスだったのです。
マルスは大統領を守ってアディオスと対決。大統領は逃げおおせますが、
アディオスはマルスにロプラス共和国の真実を伝えます。

「ロプラス共和国はロボット大統領になってから独裁国家となっており、なおかつ
 大統領の体内には50メガトンの水爆が搭載されており、
 大統領に誰も手出しができない。」
その事実にマルスは愕然とします。
本国に強制送還されたサリーたちは反逆者として処刑され、
もう、生きてはいないだろう…。

その後、サリーから貰ったレコードを再生すると、サリーのメッセージが。
その内容はロプラスの悲惨な実情を訴えるものでした。

「ロプラスでは子供は国家の完全管理のもとで育成される。そこには自由はない。
 五歳になると知能テストが実施され、失格するとガス室に送られる。
 それから年一回は知能試験が実施され、試験に落ちれば
 次々とガスの餌食にされる。ロボット大統領就任後、
 ロプラスの人口は半分に減ってしまった…。
 僕は、ロプラスの工作員が日本から攫ってきた科学者から、君に渡して欲しいという
 メッセージを預かっている。」


レコードジャケットに挟まれたメッセージは、行方不明になった山之上博士のものでした。
メッセージはたった一文字。「心」。
かつて戦いの強さのみを追求していた山之上博士が
マルスに寄せた一文字の想い…
マルスは決心します。

ロプラス大統領はマルス達を共和国に招待すると言い、旅客機にマルス達を乗せます。
が、マルスは飛行機が離陸すると、アディオスと共に大統領と対決!
追い詰められた大統領は核爆発の起爆スイッチを作動。
大統領を抱えて機外に飛び出すマルス。
刹那、空中で大きな核爆発が!が、マルスは無事。
山之上博士がレコードジャケットに隠して送った設計図を元に作った
超小型核シールド回路に守られていたのです。

マルスはロプラスに旅立つことになりました。
山之上博士と共にロプラスを解放、再建するために。

いささか駆け足ですが、最終回の概容を紹介しました。
人間の尊厳を踏みにじる独裁者との対決、というのは
手塚作品のテーマとしてよく使われるもので、
本作も最終回にそのテーマを選んだのは、原作・手塚治虫という
冠に箔を付ける意味でも、正しい選択だったのではないかと
私は考えるのですが。
もし、放送がもっと長く続いていれば、最終回は違ってたかも?

ジェッターマルス飛行形態



ジェッターマルス スタッフ
原作/手塚治虫と手塚プロダクション
企画/別所孝治・田宮 武
チーフディレクター/りんたろう
シリーズ構成/丸山正雄
製作担当/大野 清(前期)菅原吉郎(後期)
キャラクター設計・監修/杉野昭夫
作画監督/杉野昭夫・森 利夫・神宮 慧・大工原 章・芦田豊雄ほか
美術設定/椋尾篁
製作協力/マッドハウス

音楽/越部信義
OP/マルス2015年(作詞・伊藤アキラ/作曲・越部信義/唄・スティーブン・トート&こおろぎ,73)
ED/少年マルス(作詞・伊藤アキラ/作曲・越部信義/唄・スティーブン・トート&大杉久美子)
ED2/おやすみマルス(作詞・伊藤アキラ/作曲・越部信義/唄・大杉久美子)

放映No放送日サブタイトル脚本演出視聴率
1977・02・032015年マルス誕生辻真先千葉すみ子(平田敏夫)
1977・02・10ロボット密輸団
1977・02・17マルスなぜ泣く
1977・02・24さようならオトウト!雪室俊一波多正美
1977・03・03史上最高のロボットタレント辻真先蕪木登喜司・山吉康夫
1977・03・10夢の国から来た少女雪室俊一泰泉寺博
1977・03・17消えた美理鈴木良武名輪丈
1977・03・24お父さんどこ行ったの?辻真先佐々木勝利
1977・03・31宇宙の始末人ランプ辻真先水沢わたる・山口秀憲
101977・04・07弟の名はメルチ雪室俊一泰泉寺博8.6
111977・04・14新入生マルス辻真先芦田豊雄8.2
121977・04・21ヒミツ諜報員ジャムボンド山本優名輪丈8.3
131977・04・28ロボット転校生ハニー雪室俊一芹川有吾・山吉康夫9.5
141977・05・05宇宙からの吸血鬼鈴木良武水沢わたる8.8
151977・05・12メルチのすきなモウスター山本優佐々木勝利7.8
161977・05・19さまよえる惑星ザザ辻真先生頼昭憲9.8
171977・06・02天保七年サムライロボット雪室俊一泰泉寺博11.0
181977・06・16よみがえる古代ロボット鈴木良武松方義方
191977・06・23マルスの初恋辻真先芹川有吾6.4
201977・06・30マルス若親分になる雪室俊一水沢わたる6.6
211977・07・07鉄腕ロボット・ジョー深野Q作りんたろう8.2
221977・07・21アンドロイドの子守唄辻真先芹川有吾4.9
231977・07・28さすらいのロボット雪室俊一勝間田具治6.3
241977・08・18もう一人の美理鈴木良武川田武範5.2
251977・09・01宇宙の狼少年星山博之竹内啓雄6.3
261977・09・08帰ってきたアディオス雪室俊一りんたろう・山口秀憲6.6
271977・09・15明日に向かって羽ばたけ!雪室俊一山吉康夫8.0





キャスト
マルス(清水マリ)
美理(松尾佳子)
川下博士(勝田 久)
山之上博士(納屋悟朗)
メルチ(白石冬美)
ヒゲオヤジ(富田耕生)
タワシ長官(八奈見乗児)
アディオス(神谷 明)
(青二プロダクション)他

と、無事今回のお題終了。
再見の機会になかなか恵まれない本作品は
出来が宜しいだけに不遇な作品です。
日本では未だにソフト化が主題歌ぐらいしかされておらず、
再放送も殆ど無い為、リアルタイム世代以外には
幻の手塚アニメ扱いを受けているのですが、別に放送禁止ではないので
いずれお目にかかれるのではないかと思っているのですが。
それではまた次回。

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