巨大ヒーローの次はミクロブーム?
新番組「ミクロイドS」とは(NETテレビ) |
(この番組は)身長3センチの小人間が主役。 物語はアルダニア連邦の砂漠地帯に基地を持ち、世界征服の野望に燃える「ドクター・デス」。 そのドクター・デスが人工衛星要員として作り上げたミクロイド人間の三人兄弟が デスの野望を知って基地を脱出し、戦うというもの。 デスの手下のミクロイド人間が行う列車転覆事故や飛行機墜落事故、殺人事件… 対して、レザー光線(原文ママ)を発するトンボ、麻酔針を発射する蝶など、 鳥や昆虫、小動物をサイボーグ化して、自分たちの武器にしながら戦う ミクロイド三兄弟の地球を守る戦いや危機が描かれる。 「小さなもの、見えないものこそ本当の恐怖を感じさせる。この作品の狙いもそこにある。 ミクロ人間を、ある意味では光化学スモッグ、原因不明の旅客機墜落などと結び付けて 考えても面白い。これからは巨大なものより、こうしたミクロイドものが一つのブームになると 思うし、その先取り的な作品ですよ。」 週刊TVガイド記事より抜粋(読みやすくする為文章を編集しています)。 |
とある砂漠を必死で逃げる三人の影。それは人間の影ではあるが 異常なまでに小さい。彼らはミクロイド。謎の生命体「ギドロン」によって 人間を改造して作られた存在だった。逃げる彼らを追う不気味な昆虫。 それは昆虫の姿をしているが、体内に精密機械を宿し、科学兵器を駆使する ギドロンの改造昆虫だった。空飛ぶミクロイドの羽音を頼りに地の果てまでも 追い続ける。「俺たちの話を聞いてくれる人間を探さなきゃならない!逃げるんだ!」 ヤンマら三人は人間の街や船を次々あたって話をしようとするものの、ギドロンによって 街は破壊され船は炎上し、彼らの話を聞こうとする人間は次々惨殺されていく。 ![]() しかもミクロイドの話を聞くといった人間は強欲な政治家で、彼らを捉えて軍部と結託し ミクロイド軍隊構想をぶち上げる始末。あげく追撃隊のギドロンに暗殺されてしまいます。 ![]() 博士はヤンマらの言葉を信じ、協力を約束する。安堵するヤンマたちではあったが、 これは果てしなく続く、ギドロンとの戦いの始まりに過ぎなかった。 果たしてヤンマたちは、人間は、ギドロンに勝利出来るのであろうか…? |
ミクロの世界は孤独の戦い
脚本は全エピソードを辻 真先氏が執筆。
SF作家としても知られる氏が全話を執筆したTVアニメというのは
そうそう無いのではないでしょうか?故に本作品は辻氏独特の
(科学文明社会への皮肉と風刺)(SFマインド溢れる仕掛け)に溢れた作風となりました。
第一話のミクロイドの逃亡劇で、行く先々で手を回されて次々ギドロンに全滅させられていく人間や、
やっと話を聞いて貰えたと思った人間が欲望の権化のような亡者で、
ミクロイドを軍需産業に活かそうと捉えたりと、文明社会の脆さと
救いようの無い人間の愚かさが皮肉と絶望感たっぷりに書かれています。
まあ、原作に比べるとやはり多少どぎつさは軽くなっていますけど…ね。
アニメでは先の「デビルマン」に倣ってか、
「ミクロイドビーィム!」「ミクロイドナイフ!」と、
わざわざ自分の武器名を叫んで戦闘しております。
当時のTVヒーローのお約束ですね。
漫画ではミクロイドはギドロンに作られた亜人類ともいうべき生命体で、
背中には収納可能な羽とそれを包む膜のようなものが肩甲骨付近にあり、
漫画のミクロイドは裸でも飛べるのですが、
アニメではミクロイドは元々普通の人間を光線によってミクロ化したものという設定
(逆行性ホルモン光線、というらしい)なので、
彼らは強化服によって空を飛ぶという事になっています。
(ただ、空を飛ぶ際に特別な高周波が出て、
ギドロンに所在がキャッチされてしまう欠点があるため、
途中から美土路博士の作った小型ジェット機「ミクロイドプレーン」を使うようになります。)
故にアニメでは彼らがミクロイドになる前の正体(普通の人間だった頃)もエピソードの中で明かされています。
ヤンマは元は日本の滋賀・地獄谷出身の青年、
アゲハはグランドキャニオン旅行中に事故で行方不明になった遭難者、
マメゾウは東南アジアのジャングルの村出身で、
何れもギドロンに攫われてミクロ化され、その際に脳の記憶を奪われた、ということらしいのです。
アニメは脱走したミクロイドの抹殺と人類滅亡の二面作戦を展開するギドロンの改造昆虫と
ヤンマ達の攻防戦が基本一話完結の形で進行。学の級友たちも協力してくれるようになり、
微力ながら人間(基本子供だけですが)もギドロンと戦う仲間となってくれます。
大人は美土路博士以外は基本役に立たない、というか、信用しようともしないのはお約束…なんですかね。
故に人類はギドロンの驚異や危機も知らぬまま、静かに侵略は進行していく…という展開。
基本は終末モノですから。
ミクロイドSについて/脚本家・辻真先 |
この作品のテーマは「小さくなった奴の孤独」ですから、 本当は主人公を一人にしたかったんです。 いわゆる主人公がいて、女の子がいて、三枚目がいて、という 三人の中でドラマをやってしまうと、周りが大きい、というのが利いてこないんです。 小さい主人公と周囲の巨大な世界との対比にしても、 絵づらの上だけでも、もっと考えなければいけなかったのでしょうね。 |
原作は終末世相反映の人類滅亡コミック
当時(1973)は未来に絶望するようなマンガや映画が乱立していまして、
洋画は「華氏451」「赤ちゃんよ永遠に」「ウエストワールド」「ソイレント・グリーン」などの
ディストピア映画が次々と公開。日本でも「日本沈没」が大ヒットし、
五島勉著の「ノストラダムスの大予言」がベストセラーになっていました(のちに映画化)。
世相は公害による自然破壊、ベトナム戦争の混沌、学生運動や過激派による世相不安、
加えてドルショックや石油ショックといった経済の混乱が立て続けに起こり、
「世界は、人類は一体これからどうなってしまうのか…?」という漠然たる不安が
人々の頭上に覆いかぶさっていた時代でした。
そんな只中に御大・手塚治虫が発表した漫画が「ミクロイドZ」。
漫画は冒頭から絶望的な展開と残酷かつグロテスクな描写が満載で、
読み進むにつれて気がどんどん滅入っていくダウナーな作品でした。
終末思想と文明批判に基づいた作話をしているのだから当然なのですが、
冒頭から延々と人の死に様をこれでもかこれでもかと見せられるのには正直うんざりで…。
当時の手塚先生の心境も多分に反映されてるのかなぁ。
漫画ではミクロイドは生まれたときからミクロイドで、
ギドロンによって種子の段階から改造されて作られた生命体、といった感じでした。
ギドロン自体は蟻が異常進化し高知能生命体になったもので、
昆虫の品種改良で様々な殺人昆虫(人虫とか)や精密な昆虫ロボット・サイボーグなどの
改造昆虫を操り、人類に挑戦を開始します。
一方の人類は美土路博士のみ深刻さを理解し、各界に危機を訴えますが、
さんざん物笑いの種にされ門前払い。人類は一向にギドロンの驚異を本気にしません。
そうこうしている内に、ついにギドロンの大攻勢が一気呵成に行われ、
人類の大半がむごたらしく死ぬというカタストロフを迎えます。
アゲハは死に、マメゾウも重傷を負い、ヤンマも満身創痍。
一応全滅では無く、危機は一旦去る形で漫画は終了しますが、
誰がどう見ても破滅の未来しか残されていないじゃないか、というラストです。
人類はこのまま虫(ギドロン)に駆逐されるしか無いのか?
何もかも手を打つのが遅かった…。
鬱屈した焦燥感ばかり残る陰惨なオチですが、
あえて決定的な結末を描かなかったのは
「皆まで言わずとも先は読めるでしょ?あとは各々好きなラストを想像して。」
という手塚先生の最後の良心?
最終回「ギドロン対われら人間」顛末は?
そんな終末感&絶望感あふれる漫画版と同じラストを
お茶の間に流すわけにもいかなかった(脚本家・辻真先はやりたかったろうけど)ためか、
TV版の最終回は全く異なるラストになりました。
美土路博士は研究と追跡の結果、ついにギドロンの秘密を暴いた。
ギドロンは蟻が突然変異で高知能を得るに至った生命体。
その頭脳を生かして改造昆虫やロボット昆虫を操り、
さらにそれを使って人間をも操る驚異の存在だった。
しかしギドロンには致命的な弱点が2つあった。
ひとつは砂漠に生まれ育ったため、水に耐性が無く、水に溺れるとあっけなく死んでしまう事。
もうひとつは、繁殖能力が非常に弱く、全世界のギドロン本体の生息数は100匹程度という事。
この弱点を突けば、ギドロンを殲滅する事が出来る…!
博士はその研究結果を携えて日本への帰路に着いていた。が、
ギドロンは既に博士を手中に落すべく、貨客船の船員や乗客を支配下に置いていた。
ギドロンの洗脳昆虫が博士の耳から入り、博士はギドロンに洗脳されてしまった。
ギドロンに操られた記者や長官らの手により拉致される。
「この子はギドロンの実験体にちょうどいい。ミクロイド化して操るとしよう」
学は車に乗せられて連れ去られる。それを知ったヤンマや、学の友人たちは
追跡を開始する。
学は車の中で、既に日本のマスコミ・政財界・大企業のトップのほとんどが
ギドロンの手によって操り人形になっているという驚愕の事実を伝えられえる。
治安悪化・自然破壊・政治汚職・拝金思想・物価高騰・人心荒廃…
全てはギドロンが人間を堕落させ破滅に追い込むために操り人形をつかって
意図的に仕組んでいた事だったのだ。
地下にギドロンの秘密基地があった。
無数に現れる蟻ロボット群。ギドロンの声が響き
傀儡の人間どもに指令を与えている。うち一人の傀儡の人間が
ミクロイド化を命じられ、学の目の前でミクロイドにされてしまう。
次は学の番だ!
しかし、操られてる美土路博士が学に迫る。どうする?
そこにヤンマが急行。水道管を破壊して地下を冠水させる。
無数の蟻ロボットの中から苦し紛れに
ギドロン本体がその姿を現した。
直後に鉄砲水がギドロンを押し流した。
あっけないまでのギドロンの最後。
途端に操られていた人々は我を取り戻す。
しかし、世界中にギドロンはまだ100匹はいる。
新たなる決意を胸に
ヤンマたちの闘志は燃え上がるのだった。
ミクロイドS 製作スタッフ
原作/手塚治虫(週刊少年チャンピオン掲載)
企画/籏野義文
プロデューサー/宮崎慎一
制作担当/江藤昌治・菅原吉郎
美術/秦 秀信・内川文広・勝又 激ほか
キャラクターデザイン/我妻 宏
音楽/三沢 郷
OP/ミクロイドS(作詞・阿久 悠/作曲・三沢 郷/唄・ヤングスターズ)
ED/ヤンマだアゲハだマメゾウだ(作詞・阿久 悠/作曲・三沢 郷/唄・ヤングスターズ)
※OPとEDがあるのは地方局放映バージョン(30分版)のみ。
キー局ではOPが第7話で「ミクロイドS」から「ヤンマだアゲハだマメゾウだ」に変更。EDは流れなかった。
放送No | 放送日 | サブタイトル | 脚本 | 演出 | 作画監督 |
1 | 1973.4.7 | 友よ!自由を… | 辻 真先 | 明比正行 | 我妻 宏 |
2 | 1973.4.14 | 地底からの挑戦 | 〃 | 設楽 博 | 森 利夫 |
3 | 1973.4.21 | ギロルの歌は悲しみの歌 | 〃 | 葛西 治 | 落合正宗 |
4 | 1973.4.28 | 眠れ! 愛の戦士よ | 〃 | 大谷恒清 | 小松原一男 |
5 | 1973.5.5 | 忍びよるクレオ 崩れる街 | 〃 | 岡崎 稔 | 我妻 宏 |
6 | 1973.5.12 | 闇に踊る毒グモ | 〃 | 小湊洋市 | 白土 武 |
7 | 1973.5.19 | 燃えるカゲロウの恐怖 | 〃 | 明比正行 | 小松原一男 |
8 | 1973.5.26 | 美しき乙女 光と闇の戦い | 〃 | 山口秀憲 | 森 利夫 |
9 | 1973.6.2 | あやつりゼミール 決死のマメゾウ | 〃 | 葛西 治 | 落合正宗 |
10 | 1973.6.9 | ドグラーの幻に狂う | 〃 | 設楽 博 | 小松原一男 |
11 | 1973.6.16 | 輝くブン あかつきの変身 | 〃 | 岡崎 稔 | 我妻 宏 |
12 | 1973.6.23 | 湖上の脱走 | 〃 | 大谷恒清 | 木暮輝夫 |
13 | 1973.6.30 | 狂ったのは誰だ | 〃 | 明比正行 | 野田卓雄 |
14 | 1973.7.7 | 最後の山男 ロゴと戦う | 〃 | 葛西 治 | 森 利夫 |
15 | 1973.7.14 | 思い出求めるヤンマの旅 | 〃 | 小湊洋市 | 落合正宗 |
16 | 1973.7.21 | ああ恩師ノラキュラ先生 | 〃 | 設楽 博 | 小松原一男 |
17 | 1973.7.28 | ロボットクラゲ黒潮に泳ぐ | 〃 | 岡崎 稔 | 我妻 宏 |
18 | 1973.8.4 | マメゾウは新入生 | 〃 | 明比正行 | 白土 武 |
19 | 1973.8.11 | 恐怖! バブロの泡 | 〃 | 大谷恒清 | 奥山玲子 |
20 | 1973.8.18 | さらば妖精マイマイ | 〃 | 明比正行 | 野田卓雄 |
21 | 1973.8.25 | がんばるビリ子 | 〃 | 山口秀憲 | 森 利夫 |
22 | 1973.9.8 | ビガーと愛すべき怪物たち | 〃 | 落合正宗 | 伊賀章二 |
23 | 1973.9.15 | マメゾウ鬼退治 | 〃 | 岡崎 稔 | 我妻 宏 |
24 | 1973.9.22 | 友情は火ともえて | 〃 | 小湊洋市 | 加藤政志 |
25 | 1973.9.29 | ミクロへの道 滅びの道 | 〃 | 葛西 治 | 角田紘一 |
26 | 1973.10.6 | ギドロン対われら人間 | 〃 | 設楽 博 | 小松原一男 |
キャスト
ヤンマ(井上真樹夫)
アゲハ(鈴木弘子)
マメゾウ(曽我町子)
学(野沢雅子)
美土路博士(鈴木泰明)
河内 志津子(千々松幸子)
田中 丸栄(田中亮一)
ノラキュラ先生(八奈見乗児)
ギドロン(永井一郎)
カンクロー(肝付兼太)
(増山江威子)(富山敬)(平井道子)(松島みのり)(菊池紘子)
(大竹宏)(富田耕生)(岡本敏明)(森功至)(柴田秀勝)ほか
というかんじでお届けしました記憶77回目。
本作品は当時の百花繚乱たる東映動画TVアニメの中では極めてマイナーな扱いを受けています。
東映まんがまつりにもチョイスされなかったし、VHS時代はソフト化も無かった
(OPEDのみ主題歌集でソフト化)。再放送も私の住む地域では
1回か2回程度しかしてなかったっけ。デビルマンはゲップ出るほどやってたのに。
三沢 郷さんのBGMは最近やっと商品化されましたが
このBGM結構出来がいいんでお気に入り。後にあの珍作劇場短編
「これがUFOだ!空飛ぶ円盤」にも流用されていますね。
謎の宇宙人と侵略昆虫…妙なところで共通点があるのかな?
次回の予定は決定しだいお知らせします。