看板

つい先日ニュースで麻酔針でお馴染みの少年探偵の映画が興行収入100億円を突破したと
報じられて話題を呼びました。あのアニメももうなんやかんやで25年以上。
長いなぁ。蘭姉ちゃんまだ高校生かぁ。
今回はそんな少年探偵…ではなく少女探偵がお題。

女王陛下のプティアンジェ

1977年12月13日〜1978年6月27日 全26話
朝日放送(テレビ朝日)系放映・製作 日本アニメーション




おそらく日本初?の少女推理探偵アニメ
一部のディープなマニアの間では説明不要の経典?とも言われてる本作品。
の割に、後年の世代にはあまり伝承されていない作品でもあります。
ここまで認知度に濃淡のある作品も珍しいと思うのですが。
まずは本作がどのように始まったアニメだったのか、あらすじをご紹介。

時は19世紀のロンドン。
イギリス貴族アイリントン家の令嬢アンジェは頭脳明晰で行動力と勇気を備えた12歳のチャーミングな少女。
ある日、宮殿の園遊会で女王ビクトリアの指輪が紛失するという事件が発生、大騒ぎとなる。
それを知ったアンジェは持ち前の推理力でこの事件を見事解決。
女王はアンジェに「プティ・アンジェ」の称号を与え、女王お墨付きの捜査官としての身分を表すペンダントを与える。

アンジェは捜査官としてロンドン警視庁とともに事件の捜査に加われる権限を貰い、
気難しいジャクソン警部や気の優しいマイケル刑事らと共に、
ロンドンで次々発生する難事件に挑み、その謎を解き明かしていくのだった。



本来は母をたずねて彷徨う少女の物語?
本作品はもともと玩具メーカーのタカラが企画し日本アニメーションに制作を依頼したもので、
企画当初の案では「母を探してスペインを放浪するジプシー少女の物語」となっていました。
実際の作品とあまりに違うのに驚いてしまいますが、おそらく先にあった「母をたずねて三千里」に、
当時ヒットしていた「キャンディキャンディ」の要素を盛り込もうとしていたフシが見え隠れします。
結果、この企画は練り直され、
「貴族令嬢の少女がロンドンを舞台に難事件を解き明かしていく少女探偵もの」という、
まるっきり別物の焼き上がりになるのですが。


アニメーションの実制作は当時日本アニメーションの下請けで
ブロッカー軍団マシーンブラスター
超合体魔術ロボギンガイザー」の
制作を行っていた葦プロダクションが担当。
同プロにとっては初の少女向けアニメとなりました。
キャラクターデザインは高橋資祐氏。タツノコプロ出身の実力派アニメーターで、
「超電磁ロボコンバトラーV」最高傑作と称される第25話「大将軍ガルーダの悲劇」の原画を
全部一人で描ききった伝説の持ち主(絵コンテ・作画監督も氏が担当)
後の美少女アニメムーブメントの火付け役となった「うる星やつら(1981・キティフィルム)」にも参加するなど、
美形・美少女キャラに定評のある高橋資祐氏が
プティアンジェの生みの親。オープニングのみですが、スタジオZの富沢和雄・金田伊功両氏が担当したことも話題となりました。
…まあ、当時の葦プロの制作体制が脆弱だったこともあって、
作画水準は総じて高いものではなく、絵的な魅力という点ではちょっと残念な面もありましたが。


当時の日本アニメーションは第一回制作作品たる「フランダースの犬(1975)」をきっかけに、
集中豪雨的に作品数を増やしていた時期。
「みつばちマーヤの冒険(1975)」「アラビアンナイトシンドバットの冒険(1975)」「草原の少女ローラ(1975)
「母をたずねて三千里(1976)」「ピコリーノの冒険(1976)」「ブロッカー軍団マシーンブラスター(1976)
「リトル・ルルとちっちゃい仲間たち(1976)」「ドカベン(1976)」「あらいぐまラスカル(1977)
「あしたへアタック!(1977)」「超合体魔術ロボギンガイザー(1977)」「くまの子ジャッキー(1977)
「おれは鉄平(1977)」「若草のシャルロット(1977)」…と、
発足三年目にして15本のTVアニメシリーズを世に出す百花繚乱ぶり。
土田プロダクション・トランスアーツ・葦プロダクション・シンエイ動画・アポロフィルムといった制作プロを傘下に従えて、
一気呵成に「日本アニメーション」作品を世に放っていました。
「女王陛下のプティアンジェ(1977)」は16本目のTVシリーズアニメとして制作された作品。
同時期にTVスペシャルアニメ「野球狂の詩(1977・SP)」も制作・放送していたのですから、
当時の日本アニメーションの怒涛の制作ラッシュにはただただ唖然とするばかり。


で、話を本編に戻します。女王陛下ならびにイギリス王国のお墨付きを貰った事で、この貴族のお嬢様はその後ロンドンで起きる
いろんな事件に首を突っ込んでいきます。捜査するロンドン警察からすれば面倒くさい事この上無い…ハズなのですが、
肝心のスコットランドヤードのジャクソン警部がマヌケでとんちんかんな推理ばかりするもんで(なんでこんなのが警部なのだ)
結果としてアンジェの鋭い観察力とひらめきが事件を解決に導く結果に。
そのくせジャクソン警部は毎回アンジェに先を越されるもんで彼女を苦々しく思っているという、まあ、解りやすい「役立たずキャラ」。
その点、警部に振り回されるマイケル刑事はアンジェを信頼している理解者でハンサムなキレ者。
ジャクソン警部がいなけりゃ事件はもっとサクサク解決するのになぁ、というだけ野暮ですか。
こういうキャラのお約束は70年代アニメの定番ですからね。


本作は某探偵アニメみたいに、毎回のように人が目をむいて殺される殺人事件を解決していくような内容ではありません。
というか、少女向けアニメという配慮もあってか、基本的に殺人事件は起こりません。
ざっと登場した事件の内容を並べてみるとー
「壁画盗難」「宝石盗難」「紅茶盗難」「遺産相続」「宝物盗難」「人探し」
「濡れ衣嫌疑」「謎の悪戯の解明」「金塊蒸発の謎」「怨霊騒動の謎」「凶悪犯あらわる」
「怪盗Xあらわる」「仏像盗難」「気球ハイジャック」「海賊船の謎を追え」「怪盗白ユリあらわる」
「偽札事件」「ニセ金貨事件」「盗賊団あらわる」「麻薬取引」

といった感じ。盗難事件が基本です。血生臭い事件は子供の情操教育上よろしくないという配慮?


あとは御家庭のトラブルや隣人トラブルのような、生活笑百科のような問題も
アンジェにおまかせと言わんばかりになんとなしに解決。
ただ、今見返すと「本当の事を知らない方が幸せになれる人だっているよね」なんて、
アンジェが諦観的なセリフで締めるやや重なシーンもあったりしたかと思えば、
ジャクソン警部が「クビになったら歌手になる」とか言って「ペッパー警部」のフリをする
(19世紀のロンドンにピンクレディーはいたのか!)オチャラケたシーンもあったりと、
全体的にごっちゃごちゃした印象を受けます。
バラエティーに富んでていいじゃないか、と言う人もいるでしょうけど。


  

アンジェ役 潘恵子
かなり年齢もさがった少女役を
どういう風に表現したらいいかということで苦労しましたけど、
夢を作るという仕事に携わったという事で幸せでした。
これからもいろんな役をやってみたいです。

(月刊アニメージュ1979年5月号「各局アニメ16年史」81頁記事より抜粋)



ロリコンブームの嚆矢となったその理由
本作品は1980年代当時の漫画マニア、コミックマーケット初期の世代の方々の間ではどういう訳か
やたら知名度が高い作品でもあります。再放送も決して多くされていないのに。
その最たる理由がロリコン漫画の教祖とも言うべき吾妻ひでおが
本作(というよりアンジェ本人のキャラクター)をいたく気に入り、
自作の漫画内や同人誌などで頻繁に取り上げた事から読者間に布教が行われ、
結果、ロリコン漫画のマストアイテム的キャラクターとして認知されていきました。
そういう認知のされ方が制作者の望むところだったか否かはさておき。

1980年代に入るとこういう少女アニメキャラを愛でるようなムーヴメントが起こり、
所謂「ロリコン・ブーム」が発生したと言われています。「ルパン三世カリオストロの城」のクラリス、
「未来少年コナン」のラナ、「赤毛のアン」のダイアナ、「ムーの白鯨」のマドーラ、
そして元祖プティアンジェなどなど、当時の同人誌を紐解くと、何とも言えない異様な熱気が伝わります。
なんというか、「物語と設定にのめりこむ」「夢とロマンに陶酔する」という従来の楽しみ方とは異なる
アニメの新しい「愉しみかた」を見つけてしまったファンダム黎明期の一つの潮流として、
当時のロリコン・ブームというのはあったように思うのです。
今ではアニメのヒロインに萌え萌えキュンなファン活動は当たり前ですが、
昔は漫画映画とも言われていたアニメのキャラに惚れ込むなど「まさにマンガ、頭にきたか」などと揶揄されていた時代。
その突破口を開いたアニメヒロインの切り込み隊の一人がプティアンジェだった…というのは持ち上げ過ぎでしょうか。




その最終回は
最高視聴率は第10話の9.5%。一度も二桁に乗せる事無く番組は半年で終了します。
裏番組は当時大人気のバラエティ「ぴったし☆カンカン(TBS)」。さしものアンジェも久米宏&コント55号には勝てなかったか。

そのアンジェの最終回は、仕事の為に家を留守にしていたアンジェのパパ&ママがインドから帰ってくるお話。
「母を探してスペインを放浪するジプシー少女の物語」の企画で始まった作品ですが、
本作ではママのほうがパパとセットで娘の元に帰って来ました。
インドからのお土産ということでロンドンに持ってきたゾウの子供が誘拐されたので、
母ゾウが怒って暴れる、という展開。取り立てて難しい推理のお話ではありませんでした。

なんのかんのあって、最後はアンジェのお父様チャールズが次の警視総監に就任する旨の通達があって、
アンジェは今後も捜査官として更に活躍していくだろうと言う示唆で締めくくります。
イギリス王室だけでなく警視総監のお墨付きも加われば、今後怖いものなしでしょうからね。
いや、アンジェは父母に秘密捜査官の件は秘密にしてたから、これを契機にバレてしまったか。
でもアンジェの事だから少女探偵を止める気などさらさら無さそうなんで、
その後もマイケル&ジャクソンの迷トリオでいろんな事件に介入していくんでしょうけど。




女王陛下のプティアンジェ スタッフ
製作/本橋浩一
企画/日本アニメーション株式会社
監督/黒川文男
プロデューサー/大場伊紘
制作担当/加藤博
脚本構成/山本優
キャラクターデザイン/高橋資祐
作画監督/田中保
美術監督/新井寅雄
色彩設定/向井稔
編集/相原義彰・辺見俊夫
制作協力/葦プロダクション 佐藤俊彦

音楽/筒井広志
OP/アンジェにおまかせ
(作詞・千家和也/作曲・小林亜星/編曲・小六禮次郎/唄・広美和子)
ED/マイ ネーム イズ プティ アンジェ
(作詞・千家和也/作曲・小林亜星/編曲・小六禮次郎/唄・広美和子)


女王陛下のプティアンジェ 放映リスト

放送No放送日サブタイトル脚本演出コンテ視聴率
11977.12.13女王様のペンダント山崎巌安濃高志
中村清
玉川真知子7.5
21977.12.20きよしこの夜 山本優安濃高志玉川真知子7.2
31977.12.27二人でお茶を 山本優西本健一玉川真知子7.0
41978.1.10オルゴール人形の秘密新井光安濃高志玉川真知子6.3
51978.1.17消えたダービー馬 山本優西本健一八尋旭7.2
61978.1.24呪いの黄金仮面合戸陽安濃高志八尋旭6.7
71978.1.31狩りの日のブーツ 山本優西本健一柳弘通7.0
81978.2.7舞踏会の夜の泥棒 新井光安濃高志八尋旭7.2
91978.2.14ロンドンの赤い謎?!八田朗西本健一柳弘通7.1
101978.2.21暴走!金塊列車 新井光安濃高志八尋旭9.5
111978.3.1恐怖のゴリラ事件 八田朗玉川真知子八尋旭7.7
121978.3.8霧の夜の亡霊 新井光安濃高志八尋旭7.0
131978.3.15古城の怪事件 八田朗玉川真知子柳弘通6.8
141978.3.22凶悪の逃亡犯 八田朗安濃高志柳弘通7.8
151978.3.29怪盗Xを追え! 山崎巌玉川真知子玉川真知子8.0
161978.4.12ハロルド王子さらわる!新井光安濃高志柳弘通8.4
171978.4.19炎の館 八田朗案納正美八尋旭7.3
181978.4.26盗まれた仏像のゆくえ新井光安濃高志柳弘通6.0
191978.5.3嵐のハイジャック!山本優山田真也八尋旭8.3
201978.5.10唄う幽霊船の謎山本優安濃高志八尋旭8.7
211978.5.17黒ユリの挑戦
白井はじめ新田義方新田義方6.6
221978.5.31ニセ札犯はだれだ!大森俊治安濃高志横田和善5.7
231978.6.6謎のビクトリア金貨 新井光小鹿英吉八尋旭8.7
241978.6.13オペラ・ハウスの怪人山本優高木厚炎柳弘通5.1
251978.6.20ドーバーコネクション山本優安濃高志八尋旭7.1
261978.6.27インドからのプレゼント山本優玉川真知子柳弘通7.1
キャスト
アンジェ・アイリントン(潘恵子)
マイケル刑事(曽我部和行)
ジャクソン警部(永井一郎)
フランク(中野聖子)
バーバラ(麻生美代子)
ポピンズ(菊池紘子)
ベンジャミン(肝付兼太)
アルフレッド(水鳥鉄夫)


と、なんとか終了。
私は実は小学生当時、本放送の第一話を偶然リアルタイムで観た経験がありまして。
もっともその一話のみで、以降観た記憶が無いので視聴習慣がつかなかった?
大学時代、岡山の友人が地元で再放送されたVTRを持っていて、
その際ほぼ全話を見せてもらいました。作画は正直ハラハラするような仕上がりで、
眉毛があったりなかったり、瞳の白丸があったりなかったり…
まあ、当時のTVアニメは色パカ当たり前の時代でしたからね。

その後バップから「FFシリーズ(ファースト&ファイナル、一話と最終回のみソフト化するシリーズビデオ)」が発売され、
「ハゼドン」「ゼロテスター」「マシーンブラスター」「ラセーヌの星」「ギンガイザー」「ビートン」などがリリース。
その中に「アンジェ」もあり、ソフト化された事から、一話と最終回は知ってる人は多いと思います。
今ではDVD全話BOXも発売されているので、お金さえ出せばいつでも観る事が出来る作品になりましたが。

4カ月ぶりの更新ですか。まあ急く必要も無いですか。
じっくりと記事は焦らずまとめていく予定。
では次回。

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