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時の人アニメ特集

今回は特集系。今ほど個人情報保護とかコンプライアンスポリシーとかが煩くなかった、というより
「なにそれ?美味しいの?」な認識だった昭和時代のころ。
当時は話題になった人物であれば功労者だろうと犯罪者だろうと
映画やTVドラマになっておりました。
悲惨な事件であってもそれがセンセーショナルであれば、
各映画会社が映画化権を巡って壮絶な争奪戦が繰り広げられてた、そんな時代。
時の人である有名人ならば、公人だろうと市井の人だろうと、映画やTVに映しまくるのが世の常でした。

で、アニメにも一時期「実在の人物」をメインに取り上げて一本作っちゃえ、と
イケイケでやってた時期がありまして。
古くはキックの鬼(1970・東映動画)空手バカ一代(1973・東京ムービー)
ピンクレディー物語栄光の天使たち(1978・T&C・東映)

SPアニメだと
「ミスタージャイアンツ栄光の背番号3(1981・日本テレビ・じんプロ・東宝映像)」
「カバ園長の…動物園日記(1981・フジテレビ・東映動画)」
「小さなラブレター〜まり子とねむの木の子供たち〜(1981・テレビ朝日・NOW企画[オカスタジオ])」

など、スポーツ選手や歌手・有名人が題材として扱われるものは多々あったのですが、
そういう偉人伝・英雄譚のような扱いじゃ無く、なんというか、関西風に言う所の
「いちびった」ような感じの実在人物アニメがこの頃垣間見えるようになりました。
その先鞭たる、いしいひさいち原作の長編劇場アニメ
「がんばれ!タブチくん」(1979・東宝東和・東京ムービー新社)がヒットし話題になったことから、
以降「時の人や話題を面白おかしく取り上げた実在人アニメ」がいくつか制作される事になります。
もっとも、その多くは「時の話題に乗っただけ」で終わり、以降時代性のズレやタイムリー性の喪失などの理由、
実在の人物をモデルにしてる旨の権利等の問題点から
現在TV放送もソフト化もほとんどされず、歴史の中に埋もれた徒花的作品となっています。

では今回、そんな徒花のような作品を三本見ていきましょう。



マンザイ太閤記


1981年10月29日公開 配給・松竹/製作・東京ムービー新社 99分

山藤章二の似顔絵が動く!関西TV界のドンがメガホンを握る
上方オールスター歴史絵巻

1981年、この頃世間を席巻していたブームは何でしょうか?
聖子ちゃん?たのきんトリオ?ガンダム?アラレちゃん?ノンノン。
漫才(MANZAI)が空前の大ブームだったのです。
フジテレビの「THE MANZAI」が火付け役ともなった漫才ブーム。
B&B、ツービート、紳助・竜助、ザ・ぼんちといった漫才師の面々が
アイドルをも凌駕する国民のスターや憧れになった時代。
演芸番組の視聴率は30%を裕に超え、なんば花月などの劇場は扉が閉まらないほどの
連日の大入満員。当時私は月一でなんば花月に観に行ってたのですが、
いつ行っても座る椅子が無いほどのぎゅうぎゅう状態。
そんな興行で「今日は最後にザ・ぼんちが出る!」なんて日にゃ、
もう椅子どころか階段や手すりにまで観客が座り込んで黄色い声援がギャーギャー。
今では考えられないほどのお笑いフィーバーでした。

そんなこの時期、関西の漫才師・落語家らをキャスティングに起用した傑作長編アニメ
「じゃりン子チエ(1981年4月公開・東京ムービー新社・監督 高畑勲)」
高評価・ヒットを受けたのを機に、
「今度は漫才師を全面に押し出した作品にしよう」と、
矢継ぎ早に作られたのが本作品です。
戦国絵巻を下敷きに、漫才的・落語的珍説を随所にちりばめ、
なおかつ漫才師らの活きたアドリブも存分に取り込んだ内容で、
キャラクターデザインは似顔絵の匠として名を馳せた職人・山藤章二氏。
監督には漫才ブームの起爆作品のひとつとしても知られる
「花王名人劇場」の仕掛人でもあり、
「やりくりアパート」「スチャラカ社員」「てなもんや三度笠」「新婚さんいらっしゃい!」
などを産み出した、関西TV界のドンとも言われた
敏腕プロデューサー・澤田隆治氏自らがメガホン。
漫才のなんたるかを知り抜いた澤田隆治氏が監督するなら…!
と、大いに期待がふくらんだものですが…
あらすじはこんな感じ。

時は戦国時代。
猿好きの武将・蜂須賀小六は、猿そっくりな若者・日吉丸を拾って下僕とした。
だが正式な士官を目指す日吉丸は、化粧マニア今川義元の足軽採用試験を受験したものの不合格。
しかしめげない彼は、ブロマイドで見たお市の方に一目ボレし、今度は暴走族の織田信長への士官を狙う。
採用された日吉丸はやがて成人し、木下藤吉郎を名乗り、織田信長の配下として
さまざまな成功を収めていく。だが、思惑どおりに事は運ばぬ戦国時代。
下品かつ個性的な戦国武将が群雄割拠する世に、果たして、秀吉は無事に天下をとれるのだろうか?

プロデューサー・片山哲生
「アニメでなきゃ出来ないもの」「いろんな要素の面白さを集めてみよう」と
思ったらこういうものが出来る事になったんです。
似顔絵は山藤章二に引き受けてもらえなければ、やる気はありませんでした。
プレスコにしたのは彼ら(漫才師)の持ち味を100%出してもらう為です。
アドリブ頻発でハメをはずして演ってもらいますが、
いったいどんな作品になるんでしょうね。

監督・澤田隆治
なにしろタレントの数が多いのでキャスティングが好き勝手に出来ました。
漫才コンビのシチュエーションがそのまま役の上で活かせるものであれば、
紳助(信長)とおさむ(秀吉)のからみで新しい漫才も出来るんです。
こうした配役の妙にも注目して下さい。これは一斉にスターが出てきた
1980年代初めの今しか出来ない作品です。モニュメント作品として是非成功させたい。

脚本 共同監督・高屋敷英夫
脚本では太閤記に新説・珍説で新しい切り口を出しました。
ただ、ギャグは生身の人間がやってこそ生きるもの。フィルムの流れに定着させると、
せっかくの刺身を冷凍食品にして出すという感じになってしまうんです。
けれども鮮度を保つために、笑いや遊びの仕掛けは盛りだくさん用意しました。
録音のあとにもコンテの修正がかなりありうると覚悟しています。

月刊アニメージュ1981年8月号記事より抜粋

公開当時、私はこの映画は見に行かず。
じゃりン子チエは3回観に行ったのに、こいつはなぜか食指が伸びず。なんででしょ。
なんば花月で売ってた「マンスリーよしもと」(当時創刊されたばかり。一冊100円の小冊子)でも
よしもとスター勢揃いの空前節後の爆笑映画としてアピールされてた
記憶があるんですけどね。どうにも劇場に足を運ぶ気が起きなくて。
当時はお笑いからガンプラに意識が移ってた時期だったから?(個人の感想です)
のちにTVでオンエアされた際に見たんですが、見た後の感想は「…なんだろうな、これ…」でした。
不思議です。アドリブで出たような面白いワードやトークの掛け合いは随所に見えるのに、
ギャグに躍動感が感じられなかったという印象。
実際、しょーもないギャグも多々ありまして。今川義元が厚化粧フェチの武将で桶狭間の戦いで
信長らと対峙する際に、いきなり雨が降ってきたため化粧が崩れて義元の顔がヒドイ面になり、
皆オゲェーっと嘔吐して、桶狭間ならぬおゲェー狭間の戦いとなった…と。
…オモんない。いや、それだけじゃない、なにか根本的な問題がある…?

さて、当時のキネマ旬報はどうこの作品を評していたかというと―

マンザイ太閤記   福田光明(キネマ旬報1981年12月上旬号 日本映画批評163頁)
八一年十一月一日、
新宿紀伊國屋ホールで行われた「やすしきよし漫才独演会」は、
人気実力ともにナンバーワンを誇るコンビの舞台だけあって、
気合の入った真剣勝負という趣があり、十二分に楽しませてもらった。
ほとばしる熱気の中には初々しさが漂っていた。
総体的に今、漫才が燃えている。(中略)

マンザイ太閤記の失敗は、映画がついに漫才の活力を最も貧しい形でしか
取り込めなかった映画界の敗北をも意味しているようにも思う。
なんだ?!これは!!人気絶頂の漫才界のスターを似顔絵化して、
その声の出演で「太閤記」アニメ版をつくるという
アイデア自体は、決して悪くない。
だが(おそらく)過酷なスケジュールのタレントを
出演させるのが不可能なため、
やむをえずアニメという形式が選ばれたという風にしかみえないのが、
漫才のみならずアニメに対する重大な侮辱ではないだろうか。

共同監督に澤田隆治が起用され、
キャラクター・デザインを山藤章二が担当して
いるというのも、根本的な企画の安易さが、
彼らに十分にその実力を発揮させずに
終わらせてしまったようだ。
確かにアニメならば金のかかるモブシーンも、実際に撮影するよりは、
簡単にスクリーンに表現することは出来る。しかしだからと言って、
そういったアニメの特性によりかかるだけで
真に迫力のあるシーンが表現できるかというと、
それこそ全く逆の結果を生んでしまう。
漫才アニメだから、その作りもアチャラカでいいというのだろうか。
♪冗談じゃなーいよ まーったく♪(ザ・ぼんちの歌う主題歌)
というのは、観客の言うセリフであって、
この映画と併映作「花の係長」
(フリテンくん以来のヒドさ!!)の二本立は、
こうした番組を堂堂と上映する
松竹という企業体質さえ疑いたくなる、空前のつまらなさであった。

映画の中でも桂三枝のTV出演番組がギャグのネタに再三使われているが、
ついに映画はTVの面白さにさえ負けている、というギャグなのかもしれない。
愛情のこもったアニメ作りといい、
キャラクターと声の絶妙のキャスティングといい、
傑作「じゃりン子チエ」がつくづく懐かしくなった。

再び言う。アニメと漫才への二重の侮辱である。
この映画は許せない。なんだ!!これは?!なんなのだ!!

キネマ旬報の評論家も相当ご立腹のようで、
本作品を「アニメと漫才に対する侮辱」とまで言い放っておりますな…。

似顔絵は似てるし、セリフは面白い事言ってるじゃないか、とは理解出来るんですが、
なぜか笑い切れないんです…正直。
いったいこれは何故なんだろう?と考えたんですが、
漫才師の表情や息遣いといった空気感も一体になるからこそ、
トークやギャグは活きるモノなんだろうな、と。
トークのイイトコばっかし切り取って繋げても、表情や空気感が無いから
愉快な事言ってるにも拘らず笑えないのかな、と思ったり。
アニメ的に言うと、セリフに合わせて後から作画してるから、セリフにバッチリの絵になるのは解るんですが、
似顔絵のキャラは思い切ったアニメ的な崩しや更なるデフォルメがしづらく、
かえって動かしづらくなってしまったのかな、とも思えました。
結果、アニメ的という点については面白味はさほど感じられず、奥行きの無い平面的な画面で
似顔絵キャラが本人の声で半マンザイのようなセリフをまくしたてるシーンががずーっと続いてた…
そんな印象です。そういう意味で高屋敷英夫氏の「ギャグは生身の人間がやってこそ生きるもの。
フィルムの流れに定着させると、せっかくの刺身を冷凍食品にして出すという感じになってしまう」

という言葉が、全てを物語っていると言えます。

マンザイ太閤記  スタッフ
製作/藤岡豊・片山哲生
脚本/高屋敷英夫・城山昇・鈴木良武・伊東恒久・吉田喜昭・山崎晴哉
キャラクターデザイン/山藤章二
作画監督/椛島義夫・山内昇寿郎
監督/澤田隆治・高屋敷英夫
撮影/荒牧国繁・佐藤るみ子
主題歌「エーメンからGoGoGo」
作詞・糸井重里/作曲・鈴木慶一/編曲・鈴木慶一
歌・ザ・ぼんち
美術/勝又譲治
背景/赤保谷愛花
録音/東音スタジオ
編集/中島照雄
ビスタサイズ・EK
上映時間1時間39分
キャスト
日吉丸・藤吉郎・秀吉…ぼんちおさむ(ザ・ぼんち)
前田犬千代…ぼんちまさと(ザ・ぼんち)
織田信長…島田紳助
明智光秀…松本竜介
やや…今いくよ
ねね…今くるよ
竹中半兵衛…桂 三枝
今川義元…西川のりお
義元の近侍…上方よしお
武田信玄…島田洋七(B&B)
上杉謙信…島田洋八(B&B)
喜肋…オール阪神
茂肋…オール巨人
森 蘭丸…明石家さんま
徳川家康…笑福亭仁鶴
蜂須賀小六…芦屋雁之助
よいよいの滝主人…横山ノック
百姓…西川きよし
時代の証言者…横山やすし

春日三球・照代 京唄子・鳳啓助 若井小づえ・若井みどり
コント赤信号 ゆーとぴあ 坂田利夫 前田五郎
三遊亭円丈 宮尾すすむ

資料提供・つくだやま氏



カッくんカフェ


1984年9月22日公開 配給・ジョイパックフィルム/製作・カックン制作団 86分

ロッキード事件の判決後に公開された前代未聞の政治家パロディアニメ

「がんばれ!タブチくん」や「プロ野球を10倍楽しく見る方法」なんて、
スポーツパロディアニメがあるのなら、政治をパロったアニメがあってもいいじゃないか
という声を受けて、制作された前代未聞の政治家パロディアニメ、それがこの「カッくんカフェ」。
風刺と皮肉のワサビの効いたギャグを画面イッパイにふりまき、新分野に挑戦…という
ふれこみだったのですが…。
本作品は当初夏(7月)の公開を目指していたものの、配給先がなかなか決まらず
予定より2ヶ月遅れの9月の公開にずれ込みました。
これはやはり内容に配給先が臆したと見るべきでしょうか?

当時、(1983)ロッキード事件の被告として裁かれていた元総理大臣・田中角栄氏。
長年に渡る審理の結果、東京地裁が出した判決は懲役4年の実刑。
元総理大臣が実刑判決を受けるという前代未聞の事態に世間は大騒ぎになってました
(当時速報が各局で飛び交い、翌日は新聞もそれ一色)
ついに金権政治による法の断罪が遂行された…と言われたのもつかの間、
田中被告は追徴金五億円をあっさり納めて収監回避し、
しかも直後の新潟の選挙で二十二万票もの圧倒的支持を受けて議員当選、復帰するのです。

世間にさまざまな感情が渦巻いていたそんな時期に制作・公開されたのがこのアニメ。
制作スタッフはどういう意図でこれを作ったのでしょうか…?
義憤?皮肉?やるせなさ?それは不明ですが、
ここまで不屈のキャラを漫画にして面白くないわけがない、と踏んでか、
クロでも無理矢理シロにする圧倒的剛腕キャラとして、カッくんは登場する事になりました。


内容は8本の短編エピソードで構成された、がんばれ!タブチくんと同じ「マルチラウンドシステム」。
その内容を簡単に要約するとこんな感じ。

第一話「バーディー・チャンス」
カッくんのゴルフ狂は大変なもの。
今日もナカちゃんとヘリでゴルフ場に来たのはいいが、
ボールがなかなかままならぬ。どっこい、そこは持ち前の行動力。
バンカーに落ちればスコップで掘り返し、岩影に入ればツルハシで岩を粉砕。
池に飛び込めばダンプで土砂を運び、ブルドーザーに乗りつけて池を埋めてしまう。
カッくんの向かう所、障害は無い。何が何でもホールインしてしまう。
これがカッくん流のゴルフ必勝法だァ!
第二話「マンハッタン・セクシー」
越後農協ツアーに混じってアメリカ旅行団に参加したカッくん。
ホテルで好物のクサヤを焼いて、毒ガスと間違えられて指名手配されてしまう。
ニューヨークから西へ西へと逃走するカッくん。
それを追うナシモト。逃げまくるカッくん、
映画の世界に入り込む。ある時は「シェーン」ある時は「第三の男」
またある時は「地獄の黙示録」のヘリに追われ、E・Tにも遭遇。
「激突!」の巨大トレーラーに追い詰められたカッくん、もうヘトヘト…。
第三話「勝ちはもらった」
戦いの火蓋は切られた。丑の刻参りをするフクちゃん。
主婦層狙いのナカちゃん。ワナに落ちてリタイヤのミキちゃん。
キリストにひざまづくカッくん。そして、決戦日。
「本年度レコード大賞は「上のヒト音頭」を歌ったカッくん!」
三波春夫ばりのド派手着物でこぶしコロコロ唄いあげるカッくん。
そんなカッくんを尻目にフク・ナカ・ミキは
涙をぬぐいながら復讐を誓うのだった…。
第四話「青春時代」
県立吉田高校ラグビー部は県大会出場の為に練習に熱が入っていたが、
部員のカッくんは今日も休部。
怒ったミキ・フクらの部員は制裁を加えようと海岸にカッくんを呼び出す。
そこで初めてカッくんの妹が心臓病で、治療費稼ぎのバイトをしていた事が解る。
「俺を殴ってくれ」と謝るフク。カッくんの拳で倒れたフクが笑い、部員が笑う。
「海のバカヤロー!」叫ぶ部員達。「さあ、あの夕陽に向かってダッシュだ」と
渚を駆ける全員の顔に夕陽が照り返していた…。
第五話「異色対談」
TVの対談番組に出演するカッくん。
お相手はタケムラのケンちゃんとマサコちゃん。
司会は売れっ子シンヤ。教育問題・性風俗と話は進むが、
ことごとくカッくんにタテつくタケムラに「キッサマ〜!」堪忍袋の緒が切れた。
スタジオ内は大騒ぎ。大喧嘩のまま番組は終了。と、
「先生、記念撮影お願いします」と、カッくんに走り寄るタケムラ。
「君も中々役者になったナ」と言われてペーコペコ。
え?タケムラもカッくんのファンだったの?
第六話「シンカンセン・カンシンセン」
上越新幹線に乗って一人故郷に向かうカッくんは
人目を避けて風呂敷包みに着流し姿。久々にゆっくりしていると、
後ろの方からセント・ルイスの「日本の政治家ベストテン」が聞こえてくる。
次々に登場する親しい名前。が、カッくんの名前が出てこない。
「誰か忘れてやしませんか?」と話に加わり、ついつい身分を明かしてしまうが
「こんな所にあのカッくんがいるわけない」とバカにされ、思わずカーッ!
カッくんの行く先々に騒ぎあり。
第七話「メインエベント・ナガタチョウ・マッチ」
国会予算委員会。ノサカ議員が国会が臭いとソーリに追求。
結局女性議員の匂いだという事になる。チナツ議員がこれに同調してわめけば、
黙ってはいない厚化粧オバン議員。
その時ゴングが鳴り、国会はリングと化す。そこへ登場した赤パンツのカッくん。
与野党言い乱れてのメジロコールが上がる。と、
プロレスを侮辱されたとアントニオイノキが出現。
カッくんVSイノキ、世紀のメインエベントのはじまりはじまり…。
第八話「さらば地球よ!」
198X年。米ソの対立は深まり、遂に全面核戦争に突入。
ミサイルの地球着弾まであと3分。地球は大パニック!40億の人命が危ない!
その時!鳥か?飛行機か?スーパーマンか?
いや、ヨッシャーマンに変身したカッくんなのです!
頭にハチマキ、唐草の風呂敷マントに下駄履き、胸に燦然と輝く「角」の一文字。
もの凄い勢いで飛んできて、着弾寸前のミサイルを次々と宇宙の果てに吹っ飛ばす。
ありがとうカッくん!

※上記内容は公開当時のチラシより抜粋

劇場映画ナマナマ情報(月刊アニメディア1984年10月号)
内容は全部で8本の短編からなり、主人公カッくん
(勿論、某田●先生のパロディ作品、ということで)が、
世界中を舞台に大活躍。ある時はゴルフ場で、
また新幹線の中、アメリカはマンハッタン、
永田町といえば言わずと知れた国会議事堂、
はたまた宇宙や日本のとある高校と、
次々と名シーン・迷シーンを展開する。
抱腹絶倒ながらピリッとワサビの効いた
ハイセンスなギャグ映画なのだ。


当時の記憶で話すと、TV告知は結構派手に行われていたと思います。
映画ダイジェスト(映画の予告編と上映館を紹介する15分程度の番組)でも
予告編が放映されてて、いっしょに流れた「カックンカックンカックン…♪」という主題歌が
今でも脳裏に焼き付いてます。
当時のジ・アニメでは「笑いの裁判は有罪か無罪か?判決は見てから決めよう。
いざ、裁判所、じゃなくて劇場へ!」
と、ワサビ?の効いたコメントを寄せていますが、
完成した作品はどうだったのか?
当時のキネマ旬報の批評文を以下に掲載します。

カッくんカフェ   野村正昭(キネマ旬報1984年11月上旬号 日本映画批評153頁)
一篇約十分の短篇が八本で計八十分強。
「がんばれ!タブチくん」「プロ野球を10倍楽しく見る方法」の
マルチラウンド・システムの応用ですな。

元首相・田中角栄ことカッくんを主人公にした
「ワサビの効いたギャグ」でいっぱいのアニメと
プレスに記してあるが、いったいどこにワサビが効いていたんだろう。
八十六分間、殆ど笑えずシラケ返った。
「フリテンくん」「マンザイ太閤記」を見た時の苦痛を思い出した。
こちらの政治意識が低い事も大いに関係あるのだろうが、
それ以前にパロディというものについて、あれこれ考えさせられた。
こういうアニメをパロディというのかな。ギャグはどこにあったんだろうな。

「青春時代」を例にとれば、心臓病の妹の治療費を稼ぐために、朝は新聞配達、
夜は氷屋のアルバイトをしている勤労学生のカッくんが、
ラグビー部のメンバーであるミキちゃん、フクちゃんに
励まされて海辺を夕陽に向かって走りだしていくというオハナシだけど、
青春ドラマのパターンを芸も無く取り入れ、
これが本当に面白いと作り手は考えているのかな。

笑い以外には目くじらたてて要求する気はさらさらないのだが、
ひとつも笑えないのは見ていて疲れるもんだな。文句を言う前に気が抜けてしまうな。
こんなものを作ってしまうスタッフには何を言っても通じないだろうな。
いしいひさいちというヒトは、本当に偉大だった。

有名人が登場するだけで、パロディというのかな。
最近はマイナーなオブジェや人物が登場してもパロディとして通用してるもんな。
ちょろいもんだな。
自閉症の映画青年には心の拠り所になるかもしれないけれど、
時たまTVで見る「今夜は最高!!」の
いわゆるパロディの、これがアニメ版なんだろうな。
こういうアニメが商品として通用するうちは、日本も平和なんだろうな。

どうせなら、本当に田中角栄を怒らせるようなアニメを作っちゃえばよいのにな。
つまらないものでも開き直っちゃえば、
何を作っても書いても恥ずかしくないのかな。(中略)
ギャグとかパロディという言葉も随分安っぽくなったもんだな。
毒という言葉も、言葉だけになっちゃったんだな。(中略)

アニメ・ファンは目が肥えてるから、やっぱりこの映画にはソッポを向くんだろうな。
大人向きのアニメと言うんなら、はたして大人はこんなアニメを見るのかな。
子供もだませないくせに、誰に見せるつもりで作ったのかな。
マスコミ受けだけ狙ったのかな。

あ、そうか、新潟の越山会の会員向けに作ったんだろうな。


まあ、見事なほどにボロクソに酷評されていますね。
当時、新潟でも上映されたそうですが反応はいまいちだったらしく、
全国規模では興行的にも評価的にも惨敗だったと言います。
中曽根康弘元総理は現役時代「政治家は漫画にならなきゃ一人前じゃない」と言っていたそうですが
アニメ映画になった田中角栄氏は超一流、と捉えればいいのでしょうか。

結局、痛烈と言うほど痛烈にも出来ず、
剛腕を揶揄しようにも当たり障りの無い感じに終始したような、
結局「何がしたかったんだろう?」という印象を受けました。
TV放映も資料を調べる限り確認出来ず、
VHSは公開後、フォーライフから発売されたのですが、
収録内容はなぎらけんいちのアルバム曲と映画の映像をミックスしたミュージックビデオのような5本のクリップに
「青春時代」「バーディー・チャンス」「シンカンセン・カンシンセン」「さらば地球よ!」の4本のみが収録。
残り4本は収録を見送られる結果に。
私もこのVHS版しか見てないので、残り4本については未見なんですが、
チラシのストーリー・ダイジェスト見る限り…別にいいかな…。

カッくんカフェ  スタッフ
企画/西城鉄男・宇田川東樹
プロデユーサー/宇田川東樹
宣伝プロデューサー/糸井重里
原作・脚本/カッくん制作団
キャラクターデザイン・作画監督/芝山 努
監督/小林 治
美術監督/清水一利
音響監督/明田川進
撮影監督/若菜章夫
編集/椙本英雄

音楽/福井 峻・平野 融
主題歌「猛烈!!カックンロール」
(作詞・伊藤あきら/作曲・中村泰士/歌・ヒロスケ)

制作/東京メディアコネクションズ・亜細亜堂

ビスタサイズ・フジカラー
上映時間1時間26分
キャスト
カッくん…伊武雅刀
ナカちゃん&シンちゃん…八代 駿
ミキちゃん…梶 哲也
フクちゃん…納谷悟朗
レーガン刑事…阪 脩
タケムラ&タコ委員長ほか…竹中直人
マサコ&アキコ&サッチャー…白石冬美
キリスト…糸井重里

松金よね子  北口光彦  桂 米助
セント・ルイス  古館伊知郎
高橋恵子  長谷川和彦  ほか



GoGo虎ェ門


1986年4月25日発売 発売元・ワーナーパイオニア/製作・スタジオぴえろ 30分

阪神ファン感涙?有名人パロてんこ盛りの日本一祝勝会OVA

わたしはこのアニメはよみうりテレビが放送していたオリジナルビデオアニメ放送枠「アニメだいすき!」で見ました。
(あの番組のチョイスの基準がよく解らないけど…。)
原作は四コマ漫画・似顔風刺漫画家の高橋春男氏が週刊ポストに連載していたもの。
1985年の阪神優勝・日本一を記念するかたちでアニメ化が決定し、
当時ようやく市場に定着し始めたオリジナルビデオアニメとして制作される事になったのです。



当時(1985)はちょっとした阪神バブルという状況で、
いろんな番組が阪神に乗っかった様なギャグやネタを乗っけていました。
アニメでもOVA「コスモス・ピンクショック」で、阪神ユニフォームを着た(模した)メカが
意味も無く出てきたりしてましたからね。業界に隠れ阪神ファンは思いのほか多かった?

ちなみにあらすじを紹介するとこういう内容。

西武球場・日本シリーズ第6戦1985年11月2日。
9‐3で阪神が西武に勝ち、球団史上初の日本一に輝いた。
ファンは狂喜し、関西中はお祭り騒ぎ。
それまでの鬱憤を晴らすように、狂ったように大はしゃぎするのだった。
いや、狂っていた。もはや関西は歓喜に発狂し、天も地も大騒ぎだった。

翌年、初詣の願掛けに新年会でのビールかけ三回戦と
優勝の恩恵に浮かれる選手たち。
さあ、今年も日本一や!と、ヨシダ監督は選手全員に
自衛隊の体験入隊訓練を受けさせる。
ところが突然始まった大戦争!
仕掛けたのは阪神に優勝をさらわれ、
苦汁をなめさせられたエガワだった。
バースに一騎打ちを仕掛けるがあっさりボロ負けし
敗走するエガワを皆で笑う阪神ナイン。

そんな折、阪神本社では次期監督にヒロオカが指名されていた。
ショックで崩れるヨシダ監督。皆に別れの大盤振る舞いをするが、
実はヒロオカは阪神建設の現場カントクになっただけだった。
「わー!みんなワシのおごった分金返せ―!」
ドケチヨシダの大騒ぎの果て、
今日も阪神ナインは栄光に向かって進むのだ。

本作品はタブチくんなどでお馴染みの芝山努さんが監督してるだけあって、
野球ギャグならお手の物といわんばかりに手錬の腕を奮ってくれています。
タブチくん以上に辛辣なギャグや風刺が組み込まれているのも印象的で、
特に徹底的にコキ下ろされているのがエガワ。
阪神にすればいろいろ因縁のある相手だからってのもあるんでしょうが、
困窮し日銭を稼ぐために内職する姿や、バースに金を借りる借りないで弄ばれるなど、
これでもかという位にバカにされています。終盤「巨人の星」のパロディで
大リーグボール2号フォームでバースに挑みますが(芝山さんも参加してましたもんね。巨人の星)
あまりにヘッポコ投手なんで球(手榴弾)が届かず、バースに蹴り返されて戦車ごと大爆発し、
黒焦げになって無様に敗退する様は、なんかスタッフの執念みたいなものを感じてしまうのですが
(骨髄に達したその怨み、ここで!みたいな)



本作品はタブチくん同様、当時の有名人がこぞってアニメになって登場する、というのも特徴の一つ。
当時モノマネタレントとして頭角を現していたキッチュ(現・松尾貴史)がモノマネ芸を駆使して
いろんな有名人の声をアテています。
登場する有名人も、当時のお笑いスターの
タモリ・たけし・さんま・鶴太郎はもとより、藤本義一や月亭八方も登場。
さらには自衛隊体験入隊編では不沈空母発言を思わせる政治家の先生が日の丸振って
「日本は強いのだー」と過激発言したりと、いろんな所に流行・時事ネタも滑り込まされていますね。


で、本来主役の虎エ門ですが、
本編同様、表立つのは阪神の選手や監督らが中心なんで、
基本虎エ門は狂言回しかナレーターの如き扱い。
ミスター味っ子のブラボーおじさんのような立ち位置と思って戴くと解りやすいかも。




GoGo虎ェ門
このビデオに関しては、制作ニュースは全く聞いてなくて、
ふってわいたように出てきた作品って気がしますね。
もう少し前宣伝をやっていてもよかったような気がしますが。


内容は高橋春男さんの四コマ漫画を30分のストーリーに仕立てたもの。
言ってみれば「がんばれ!タブチくん」の阪神版。


監督は「タブチくん」の芝山努さん。

芝山さんも長くやっているだけあってギャグのツボを心得ている。
作画も安定しているし。


だけど「タブチくん」よりアクの強さとか浪花の根性みたいなものが
よく出ていて面白かった。


ただ、僕は野球を知らないのであまり笑えなかったですね。
僕でも知ってる江川とかバースのエピソードは笑えたから、
野球を知ってる人に薦めたい。


ところで、現在阪神は低迷中。
これがビデオの売り上げに響くかどうか気になります。


(月刊アニメージュ1986年6月号 アニメージュ・レーダー87頁記事)

発売されたのは阪神日本一の翌年の1986年4月25日。アニメ制作は時間かかりますからね。
で、発売時期の阪神は掛布の骨折長期離脱にチームも負けが込んで低迷から抜け出せず、
結果、首位広島から13.5ゲームも離されての3位でシーズン終了。
以降暗黒時代に突入し、どん底のトンネルを這いずり回る事になったのは周知の事実。
このビデオの売り上げはどうだったのかは不明ですが、こんな時代もあったんだよ、と過去を証言する
映像商品のひとつ、と捉えれば、それはそれで意味のある作品なのかも知れません。

GoGo虎ェ門  スタッフ
原作/高橋春男(小学館・週刊ポスト連載)
企画・製作/布川ゆうじ
プロデューサー/鈴木義瀧
監督/芝山 努
脚本/大岸一生
絵コンテ・演出/中村孝一郎
作画監督・キャラクターデザイン/山田みちしろ
撮影監督/菅谷信行
音響制作/ザック・プロモーション
美術監督/門野真理子
背景/藤沢みどり・海野 卓
録音監督/水本 完
編集/森田編集室(坂本雅紀・森田清次)
制作担当/岡村雅裕
制作協力/亜細亜堂

テーマソング「虎ェ門マーチ」
作詞・別府千波也/作曲・クニ河内/編曲・鈴木滋人
唄・とみたいちろう

キャスト
虎ェ門…堀 絢子
ヨシダカントク…永井一郎
オカダ、フジモト(ほか有名人多数)…キッチュ
カケフ…青野 武
バース…内海賢二
エガワ…二又一成

村山 明  羽村京子  木藤聡子  色川京子
阪 脩  曽我部和恭  池本小百合 



と、いうわけで今回の記憶のかさブタ、いかがでしたか?
3作品とも今となっては再見の機会もほとんどなく、DVDの発売もほぼ見こめません。
時代の徒花、といえばそれまでで、この手の作品って「当時の流行や時代の空気」込みで成立してる側面もあって
今見ると「ワケが解らない」「何のコト言ってるの?」なネタも多く
タイムリーな時事ネタや流行CMネタなんかはホント、生モノで日持ちしないわ
というのを痛感しますね。そういう意味では「当時限定アニメ」というくくり方も出来ようと思います。
また、今と個人情報やプライバシーの捉え方が大きく異なる半世紀近く昔の作品故、
どんなに個人や団体をこきおろす表現も「いいじゃん。有名税、有名税」で
スルーされてた時代でもあったので、こういう作品は成立しえたのでしょう。
今はそんな理屈も通らない?いろいろ煩い世の中ですしね。

次回はどうしようかな。なんか企画中。では。

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