タイトル

第五話・第六話・第七話ストーリー紹介



第五話

様々な運命に翻弄された挙句、野球勝負にも負けたクロパン。
精神的に追い詰められたか、狼狽し憔悴しきって絶叫する。
「ちっくしょう!あああーっ!」



場所は光陽学園内の道場。
その道場の後ろから野太い声が。
「おい、そこの、静かにしろ!」
「なにを!」
苛立つクロパンが振り向くと柔道着を来た巨体の男。
「このやろう、えらそうに!これでもくらえ!」
男に硬球を全力で投げつけるクロパン(おいおい)。
「むん!」柔道着の男が上半身裸になり立ち上がる。

見事な筋骨隆々のその身体。
130キロを越えるクロパンの剛速球を腹で受け止めた!

「お、おれの球を腹で…」
「フッフフ、なかなかやるな。」立ち上がる男。
裕に2メートルはあろうかという巨体。
「くそーっ!」ヤケクソのクロパンが殴りかかるが、
刹那、手刀と当身で一瞬に叩きのめされてしまう。
力の差は歴然だった。

「どうだ、もう気はすんだか。」
うずくまり、黙り込むクロパンに男が語りかける。
「どうしたんだ、言ってみろ。こんな時は
腹の中の物をみんな吐き出した方が楽になるぞ。」
「……聞きたきゃ聞かせてやっか…。」
クロパンがつぶやきだす。
オレたちは二卵生双生児の双子だった…
弟より病弱だったオレは、父親の兄、
…つまり漁師の今の親父にあずけられた。
その時から健康な体をつくるためにと野球を手ほどきされ、
毎日が野球の生活だった…


その甲斐あって、オレは、日焼けした、
県内では、結構名のとおったピッチャーに育ったよ… 
けど、けど、あの男にそそのかされ、東京に来てみたらこのザマだっぺよ。
い、いまさらそんな家に行けるか!

どうもクロパンは実家には帰らず、行き場も無いままこの道場に転がり込んで来た…
といったところらしい。
黙って聞く男。「…なるほどそうか…人それぞれ悩みはあるというわけだ。」
「…ところでおまえはこんな所で何を…?」
クロパンは男に逆質問。男が答える。
「…オレか。オレにはオレの悩みありさ。
こうやって真夜中道場に来て、
一人じっと座っていると、気持ちが落ち着いてな。」
「なにをジジくさい!」
ムっとする男。
「こいつ、やる気か!」
クロパンが軽く笑う。
男もつい笑みがこぼれる。

「やめとこう、あんたの力は十分わかったよ。」
「なかなかかしこいぜ。」
奇妙な友情が夜明けとともに生まれた。

早朝―道場で一夜を過ごしたクロパンが目を覚ますと、
道場からあの男が消えていた。「あいつどこ行ったのかな?」

するとグラウンドからあの男の怒声が。

「おまえらがあんまり弱いもんだから、どこの野球部も試合をやってくんねえじゃねえか!
オレたちがよ、練習がてら西洋棒球につきあってやんなきゃ
試合もできねえじゃねーかーっ!バーカ!」
柔道部と光陽学園野球部の早朝練習試合。
16-3で柔道部の圧倒的優勢。

どうもあまりにも光陽野球部が弱すぎるので
鍛えるために柔道部が胸を貸している、といったところらしい。
(え?あの部長が率いてる野球部が素人集団の柔道部に野球で手も足も出ないの?)

見かねたクロパンがピッチャーに詰めより
「おら、お前外野でも行ってな。」と、マウンドを交代させ、
自分が投げると言い出します。
「さあて、オレが来た以上もう一人だってランナーは出さねえぞ!」
その宣言どおり、クロパンの剛速球は
柔道部員をきりきり舞いさせていきます。
そして、昨夜の道場の巨漢ガバッターボックスに立ちます。
「ボウズ!一晩寝たらいやに威勢がよくなったな。」
「んだ。きのうはナイーブな心が傷ついていたっぺよ!」
「そうかい!投げてこいや」
「ゆうべの仇、討たせてもらうかんな。」

クロパンの剛速球が唸りをあげて投げ込まれます。男は見事三球三振…でしたが、
「オレに三振はない!
オレはホームランを打つことだけが楽しみで、これをやっとるんじゃ!
ホームランをかっとばすまで三振はないんじゃい!」
「えー、ムチャクチャだな。」
ならばとクロパンは何球も男を空振りさせて負けを認めさせようとします。
何十球空振りが続いたか、いくばくかの応酬が続いた後―
ついに男のバットがクロパンの球を捉えます。
「ちぇすとーっ!」
センターライナーでしたが、打球が凄まじく、
センターを吹っ飛ばしてヒット!

「ば、化け物め…」
「ぐわっはははははは。」

恐るべき身体能力を誇るこの男は一体何者なのか?

第六話


とある日の早朝、海岸で乱取りの稽古中の柔道部。
そこにクロパンが殴りこみをかけに来た。

「おーい、てめえらー!おれがこわいのかーっ!」
巨漢の男が稽古の手を止め近づく。
「またお前か。しつこいやつじゃのう。おまえもこっちへきてちょっとやれや。」
真冬の海の稽古。
クロパンは「そんなもんできっか…」と断りますが、
「この水の中でオレと一勝負したら野球をやってもいいぞ。」と言われ、
売られたケンカは何とやら。クロパンは海に飛び込み勝負を挑みます。
当然ながら結果はクロパンの惨敗。
毛布に包まれ鼻をたらす哀れなクロパンの姿。
「さあ、こんどは約束どおり野球で勝負だ!いくどーっ!」
リベンジとばかりに剛速球を投げ込むクロパン。
「何回見てもおまえの球は速いのう。」
不適に笑う男。
「おい、まっすぐの球だけじゃいくら速くったってだめだぞ。
柔道で鍛えたオレの目で二回も見りゃ
もう止まってるのと同じよ。がっはははは。」

「ちぇっ、ばかにして。本当はあんまり速いんで、
手がでないんだろうがーっ!」
「ちぇすとーっ!」宣言どおり、クロパンの剛速球を捉え、打ち返す男。
ピッチャーライナー!

「なにをっくそっ!」素手の左手でライナーを受けるクロパン。
その打球の威力に左手の掌の皮膚が破れ、
人差し指から薬指にかけ出血が。

血染めのボールを見てキャッチャーの弟が気遣います。
「すごい血だ。すぐ手当てをしなくては」
「なあにこんなもんだいじょうぶだいじょうぶ。」
しかし内心、男の打球の凄まじさはクロパンを驚愕させます。
「…ボールが、おれの手の中でコマみたいにまわっていた…ものすごい力だ」

「大丈夫かい?今日のところは引き分けにしてやってもいいんだぜ。」
「ふん!このくらいの血でオタオタするようなおれじゃねえ!続きをやっぺー!」
「よしわかった!まだオレ様の実力のほどがわからんらしいな。」

マウンドに再度立つクロパン。しかし左手の痛みは凄まじく、まともにボールが握れません。
それでも無理して投げたボールは…?

それまでのクロパンの直球とはまったく異なる軌道を描き、男を三振に。

「なんだいまのは?」
「落ちたぞカーブだ。」
「いや、横にスライドしながら曲がった。」
「へ、変化球だ。」

「クロパン、もう一度今みたいに投げてくれ。」弟が要求するも、
当のクロパンも良く解っていない模様。痛みをこらえて再度投げ込むと、
やはりググッ、と軌道を曲げながらミットへ。
「うん、やっぱりおもった通りだ。」
不思議がるクロパンと男。弟が解説する。

「つまりだな、クロパンは指を怪我して力が入れられなかった。
そのために痛みの少ない親指と小指に全力を入れて投げなくてはならなくなった。
それが思いもよらない回転をボールに与えたために変化球ができたわけなんだ。」
「なに…?小指で?すると小指におれが負けた…。」
不可思議に話す男。勝負はクロパンの勝利に終わる。

後日、柔道場。柔道の練習の見学に訪れたクロパン。
体格差は裕に倍近くある小男と大男の組み合い。

「あんな小さい男に大男が相手だなんてかわいそうでないの!あ〜もう見てらんねえ。」
「いやちがう。よく見ていろ。」小男が脚払いをかけ重心の崩れた大男を一気に投げる。
「技あり!」

「ゲー、す、すげえ。」
「柔よく剛をせいす、さ。
今朝おまえが小指で投げた球でオレが三振したようなものだ。」
それを聞いたクロパンが笑いながら返します。

「ふーん、オレの球があのチビでおまえがあの大男になるわけか。
なんかわからんがこいつはゆかいだ。あっははは。」
ムッ、と一瞬なる男でしたが…
「ふむ こいつの球があのチビで空振りのオレがあの大男か…フフ。
 野球ちゅうのもなんかおもしろそうじゃのう。」

柔道部主将・三好晴海。
クロパンとともに野球をやろう、と決意を固めた瞬間でした。

第七話



光陽学園野球部。クロパンと三好が練習中。
「いくどーっ!」
「おおっ!」
三好のバッティングも凄まじいものの、クロパンの剛速球にも磨きがかかってきました。
あえなく三好はキャッチャーフライ…のはずが、
ボールが落ちてこない…?

よく見ると、バックネット上に猿のような人影。
「だれだーっ!オレの昼寝のじゃまをするやつは!」
三好が半笑いでクロパンに告げます。
「またあいつか。あいつはな…これ!(頭の横で指をクルクル回してパーを開く仕草)」
それを見たバックネット上の男が怒ります。

「サルトビ…サイスケ?」クロパンが不思議そうに見てると三好が言います。
「あいつは我が校の忍者さ。」
「忍者…?」
キャッチャーがボールを返してくれと猿飛に言いますが、
ヘソを曲げた猿飛は拒否し、
野球を取るに足らない遊びとバカにします。

怒ったクロパンはバックネットをよじ登り、猿飛を捕まえんものと迫ります。
「あらら、のぼってくる。ネコみたいなやっちゃ!」
しかし猿飛は身軽に逃げて着地し、バッターボックスに立ちます。
「オレと野球で勝負しろーっ、だろ?えっ、クロパンちゃんよ!」
その口調から、
猿飛はクロパンの事は何から何まで知っているかのようでした。
「さあ、とっとと投げろ!それともオレさまに打たれるのがこわいか!」
怒ったクロパンは勝負を受けます。
「いいか!お前が一塁まで行けたらお前の勝ちだ。
そのかわり行けなかったら野球をバカにしたことをあやまれ!」
「ケッケケ。そんときは逆立ちしてグラウンドを百周してやるぜ!」
クロパンと猿飛の勝負開始。

が、クロパンの剛速球に猿飛のバットはまったくタイミングが合いません。
「ひょ〜っものすごく速い!」二球目も空振り。が、
猿飛は余裕の表情。
「一球あれば「えがっぺ」よ。」クロパンの訛りをあえて真似て挑発。
「なにをこのっ!三振だーっ!」
三球目を投げた刹那、「あちょ!」と気合をかけ、高速で回転を始めます。
途端に土煙が舞い上がり、竜巻に!

「がっははは、みろ三振だ!」とクロパンの喜びもつかの間、
キャッチャーは土煙で球を見失い落球。
猿飛は振り逃げでまんまと一塁に到達。

「ごじゃっぺ(でたらめ)なことすんな!このーっ!」
「怒ったの?おまえルール知らないの?だからカッペはヤだね。」
ブチっ、とキレるクロパン。
怒りに任せて一塁上の猿飛に牽制球。
「サル死ねーっ!」

剛速球を紙一重で避けた猿飛はジャンプでバックネットを軽々飛び越えて
逃げていきました。クロパンは苛立ちつつも
「ちっくしょう…でもあいつ!」

時は流れて3月。
中学卒業の季節。
三好とクロパンが歩いています。
「それにしてもあの猿飛とかいう忍者をほおっておくのはもったいない。」
「おう、実はオレもそう思ってた。あいつをなんとか
野球に引きずり込めんかな、オレみたいによ。」
それを見越したかのように、二人の前に現れる猿飛。

「お二人さん、オレを野球の仲間にしたいんだろう。」
忍者ゆえの地獄耳。そしてあっさり、

猿飛のズボンには切れた跡が。
クロパンの牽制球を避けた際についたものだった。
「猿飛13代目のオレさまをもうちょっとで仕留めそうに
なったやつはあんたがはじめてだぜ!」
そのクロパンの潜在能力に高さに、猿飛は惚れ込んだのだった。
「えがっぺ!」
クロパンは猿飛を仲間として認めた。
クロパン・三好・猿飛。三人が固い握手を交わす。

ここに共に甲子園を目指す同士が生まれたのだった。

感想
クロパン三勇士とも言うべき三好・猿飛の登場&紹介編。
この三話分でそれまであったクロパン出生の秘密等々の話は
第五話の冒頭の説明を持って一区切り。
あれだけ高い身体能力を見せ付けた弟も、この三話ではさしたる見せ場も無い。
唯一の出じろは変化球の解説くらいか。監督に至っては一切顔すら出さず。
あれだけ茨城の沖高校野球部やクロパンを
「レベルが低い」「お山の大将」と揶揄しておいて、
光陽学園野球部自体が「弱すぎて他の野球部に相手にされていない」というのは、
説明がつかないような気がするのですが…。
クロパン自体も話し方が標準語に変化しつつある感じで、
茨城弁は時折出る、程度の口調に。
この傾向が回を追うごとに顕著化していくことになるのですが、
それ以上にこの「燃えろ!クロパン」自体が
大幅な「新展開」を次号以降迎えることになります。
その「新展開」とは…





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