看板

夏も終わって秋になってしょっぱなの更新です。今年は更新がスローだったんで
時間のあるとき見つけて更新しないと。
今回は、マイナーな存在?一連のスポ根もののなかでも
あまり語られることのないこちらが御題。

柔道讃歌
(1974年4月1日〜1974年9月30日・日本テレビ系放映・全27回
(毎週月曜夜7時放送)
/製作・東京ムービー)

巴突進太

子門真人の「やぁ〜っ!」という甲高いシャウトの主題歌で幕を開ける
このアニメ。梶原一騎+東京ムービー+Aプロという
幾多の名作スポ根ものを作ってきたラインの
最後の作品は、なぜか不遇の扱いを受けているのですが。




東京ムービー・梶原・Aプロ路線最後の作品
ストーリーはこんな感じ。

 荒波渦巻く千葉九十九里浜。ケンカ番長として名をはせた
 巴突進太は、県立紅洋高校に入学。入学早々部活動破りを行い
 全校生徒を敵に大暴れ。その最中に柔道部主将・大東坊と対決することになり、
 柔道対決をすることに。柔道などしたことの無い突進太は一方的に
 やられるものの、瀕死の状態で放った巴投げが大東坊を投げ飛ばし勝利を得る。


 巴の素質に惚れた大東坊は巴を柔道部に勧誘する。最初は拒んだ突進太だが
 母、輝子が過去、講道館の女三四郎と呼ばれ、禁断の男女対決で
 豪傑の柔道家を破った伝説の持ち主と知り、柔道に青春を賭ける事を誓う。


 突進太の母がかつての女三四郎と知った新任教師の利鎌竜平は驚愕した。
 女三四郎に敗れた柔道家というのは、実は竜平の兄だったのだ。
 女に負けた男、として世間から嘲笑の対象となり、のたれ死にした兄の仇を討つため
 利鎌竜平は受身不可能なる必殺技「天地返し」
(体落としの空中二段掛け。投げられた相手は超電磁スピン状態で脳天から畳に突き刺さる。)
 を編み出し、復讐の「鬼」となって女三四郎を探していたのだった。

 時を経て、偶然会うことになったかつての女三四郎・輝子と鬼利鎌。
 利鎌は兄の無念を輝子にぶつける。泣き崩れて謝る輝子。
 が、すでに講道館を去り、柔道を捨て、一児の母になった輝子に
 利鎌の闘志は向けられなかった。変わりに利鎌は突進太に告げる。
 「怨念の矛先を突進太!おまえに向けさせてもらう!
  お前の高校3年間を通して、じっくりと痛めつけてやる〜っ!」

 こうして、巴突進太の波乱に満ちた柔道人生が幕を開けたのだった。

 

 父と子(巨人の星)、師匠と弟子(あしたのジョー・柔道一直線)、先輩後輩(侍ジャイアンツ)ときて
次に選んだ題材が母と子と師匠、という複雑な構図。
しかも師匠がのちに最大の敵として常に対峙しあうという構図は
巨人の星以上に鮮烈に、辛辣に、かつ迫力ある描写をされてます。
かつて過去に互いに柔道に青春のすべてを賭けた2人の柔道家(輝子&利鎌)が
破天荒なる少年、巴突進太によって過去の闘志に火が付き、
ひたすら、ただひたすらに戦いへの道を通じて柔の道を究めていく…
この構図は素晴しいです。過去梶原作品で蓄積されたドラマツルギーが
複雑ながらも巧みに再構成されています。いや、マジ面白いですよ。
 


母と子、師匠と弟子の壮絶な戦い
復讐の対象だと名指しされた突進太は以降、鬼利鎌に
リンチに等しいシゴキを受け続けるハメになります。
師弟間でありながらも怨念の間が取り持つ敵味方の関係。
突進太は毎度毎度瀕死の状態までシゴかれまくります。
(実は鬼コーチは演技、ホントは良い人、というのは言わない約束。)
そんな突進太の前にライバルが現れます。(お約束ですね。)
柔道讃歌版花形満・ファッショナブルな華麗柔道を決める
「秒の殺し屋(1分以内に必ず敵を倒すという意)」帯刀昭吾です。
突進太は帯刀昭吾に決闘を挑みますが、まだ未熟な腕の突進太ではかなわず、
手足の関節を外されてボロ負けします。悔しさに燃える突進太は、
帯刀昭吾を倒すために必殺技が必要と考えます。
突進太、「天地返し」を伝授してほしいと利鎌に懇願しますが、
「みっともない真似するんじゃない!人様の技を借りて、勝ったつもりかい!」と、
母、輝子にどやされて断念。突進太、艱難辛苦の末に天地返しの原理「二段投げ」を巴投げに応用した「巴二段投げ」
(巴投げの空中二段掛け。投げられた相手は20m以上舞い上がった後、脳天から畳に突き刺さる。)
を完成させ、帯刀昭吾に挑戦しようとするが、帯刀昭吾、なんと
アメリカの巨漢柔道高校生、ベン・ワーロックの体格差に無残に敗れてしまう。
実はこのワーロック、母親が女子レスラー。この母親も若い頃に来日して、
女三四郎・輝子に投げられて引退した過去を持つ。
それに引きずられて日本に、巴と戦いにきたのである。
(おかんの若い頃蒔いた種が原因の怨恨ばっかだなぁ。難儀な。)
新たなるライバル登場に驚愕する突進太。

そして、ついに全国高校生柔道選手権関東大会の日。
野獣となってよみがえった帯刀昭吾は山篭りの末編み出した必殺技・「大竜巻落し」
(一本背負いで投げた相手に肩タックルをして回転を加える。落ちた相手はドリルのように畳にめり込んでEND。)
ワーロックの必殺技・「回転地獄ころがし」
(相手の両足首をつかんで頭上でジャイアントスイング、50回ほど振り回した後に
そのままブリッジし、相手をネズミ花火状態にして試合場の外に叩きつける。)

これらのライバルの必殺技を前に、突進太はどう戦う?

柔道讃歌ワンシーンより。



残酷なまでに荒唐無稽、それが「柔道讃歌」。
と、まあ、これが本編の大体の展開。見てもらうと判りますが、柔道の試合などは
荒唐無稽そのもの。道場は砂煙と血煙が舞い、
投げられた相手は2〜30メートルもあろうかという程に高々と舞い上がり、
畳ごと床板をブチ抜き、壁を破ってコンクリートまでブチ抜く。
投げられた後は瀕死の重傷の選手がころがり、
必殺技はいずれも人間の常識を超えたものばかり。
大体、殆どの必殺技が一度相手を空中に持っていった後で
かけるものばかりなんで、普通こんな状態になれば何でも出来ますよね。
現実性云々で考えてはいけません。
この「柔道讃歌」は、この荒唐無稽を存分に愉しむのが最高の味わい方なのです。
で、この関東大会、誰が制したかというと、巴もワーロックも帯刀も共倒れ。
漁夫の利を得た無名のイガグリくんが優勝して終わります。
梶原作品では主人公が王座に着くことは殆どありませんね。
名を捨て実を取れ、という梶原イズムがここにも浸透しています。


不遇の作品「柔道讃歌」
まあ、とはいえ、この柔道讃歌という作品、マイナーである事は否めません。
同時期のスポ根作品に比べて殆ど再放送もなく、ソフト化も一切されてません。
原作の単行本も当時連載してたサンデーがコミックスレーベルを持っていなかったという事情もあって、
連載中に単行本は出せず、数年たって若木書房という会社から
コミックス全16巻がでたものの、同社はすぐに倒産。単行本も絶版になってしまいました。
その後、梶原一騎漫画全集としてサンケイ出版から単行本が出る予定になってましたが、
企画が中断になりお蔵入り…。近年になってようやく雄出版から単行本化されるまでは
見ることすらなかなか出来ない幻の漫画になってました。
私も15年まえ、岡山の古本屋で最初の単行本買ったんですがね。1冊1000円ですよ。高いなぁ。
ましてや同じ梶原作品に「柔道一直線」というメジャーなのがあるせいで、
(足ピアノと自然薯で有名なアレです。)柔道讃歌はなにかにつけ
陰に隠れた扱いを受けていた感があります。加えてアニメ化の時期が悪かった。
柔道讃歌が放送されたのは1974年。確かに「侍ジャイアンツ」「空手バカ一代」といった
同系統のアニメが放送されていたとはいえ、
世間の風潮はもはや熱血根性の時代を終え、シラケな世代に入っており、
かつてのような熱血ど根性路線は過去のものになりつつありました。
結局「柔道讃歌」は原作の半分にも満たない話数で急遽終了。
アニメ版の最終回は突進太の柔道を通じてイイ仲になった利鎌竜平と突進太の母ちゃんが
結婚する、ということになり、それを知った突進太が猛反発。
「いやだいやだいやだ〜っ!母ちゃんはオレの母ちゃんだ〜!」
師匠が義理の父になる、というより、母ちゃんが利鎌竜平というオトコに取られるという
ことが我慢できなかったのです。…こういうところはガキのような性格描写をされてる突進太。
(ましてや突進太は極度のマザコンですしね。)
結果、突進太と利鎌竜平は母ちゃんを賭けて九十九里の浜辺で決闘します。
「おれが勝ったら母ちゃんはあきらめろ!おれが負けたら…へへっっ、そん時ゃあ…
素直にお父様とおよび申し上げてやるぜぇ!」


東海テレビ製作の昼ドラマみたいな展開に呆然としつつ、決闘がはじまります。
まあ、結果から申し上げれば、突進太の負け。
利鎌竜平というキャラは実は一度もしっかり負けたコトのない無敵キャラでして。
ただ、竜平に投げられて失神した突進太に母が泣きながら寄り添う
光景をみて、利鎌竜平曰く「おれの…負けだ…!」
柔道に勝っても母子の絆に負けた、ということですね。
自分の入り込む余地はないと見た利鎌竜平は翌日学校を辞職。
どこかに旅立っていってしまいます。
ラストは竜平の旅立ちを知った巴親子が昇る朝日を岸壁で見つめるカットでエンドマーク。

アニメはここで終わってしまってます。個人的な感想を言わせてもらうと
「もったいない!」
なぜなら、柔道讃歌という漫画が面白くなるのはここからなんですもん。
これ以降、師弟関係から敵味方になった突進太と利鎌竜平はさまざまな国際大会でぶつかり合い、
死闘を演じていくのです。新たなライバルの出現、新必殺技の誕生、
(巴黒潮くずしという、相手を殺しかねない二段投げの強化技。)
ついには利鎌竜平は「日本の柔道はもはや柔道ではない〜っ!」と、打倒講道館を旗印に
新柔道勢力「鬼道塾」を勃興させ、
講道館から日本柔道の看板をたった一人で奪い取ってしまうのです。
面目をつぶされた講道館は講道館の名誉を取り戻さんと
突進太を招聘し、ここに鬼道塾・利鎌と講道館・突進太の柔道戦争が始まります。
無敵の必殺技、利鎌の「天地返し」に対抗するには、講道館柔道の幻の技「山嵐」しかない、と、
突進太はついに1年かけて「山嵐」をマスターします。が、天才鬼利鎌は
「山嵐やぶりの秘策」をついに完成させ、突進太と最後の決戦に臨むのですが…。

荒唐無稽で描写もいかにもなステレオタイプな漫画ですが(興奮するとヨダレたれまくるし…)
絵柄の濃さや前時代的マンガチックな描写は多少目をつぶっていただいて、
機会があれば一度読んでみてください。止まらなくなります。
つくづく残念なのはこの後半までアニメ化されていれば
面白いシリーズというコトで現在の評価もかわっていたでしょうに。


柔道讃歌 スタッフ
原作/梶原一騎・貝塚ひろし(週刊少年サンデー掲載)
プロデューサー/川口晴年
チーフディレクター/吉田茂承
ディレクター・コンテ/吉田茂承・御厨恭輔・波多正美・今沢哲男・福富 博・高屋敷英夫
作画監修/楠部大吉郎
作画監督/熊野基雄・小泉謙三・香西隆男・川尻善昭・荒木伸吾 他
美術監督/影山 仁

音楽/高井達雄
OP/柔道賛歌(作詞・梶原一騎/作曲・高井達雄/唄・子門真人)
ED/母子シャチの歌(作詞・梶原一騎/作曲・高井達雄/唄・ロイヤル・ナイツ)


柔道讃歌 放映リスト


放送No放送日サブタイトル脚本
1974.4.1血が騒ぐ、柔の道 山崎晴哉
1974.4.8宿命の母子三四郎 伊東恒久
1974.4.15鬼!利鎌の正体井上知士
1974.4.22おとこ突進太まっしぐら伊東恒久
1974.4.29巨象!春山泰蔵山崎晴哉
1974.5.6血の契約書伊東恒久
1974.5.13突進太けいこどめ!松崎幸雄
1974.5.20嵐の県大会前夜伊東恒久
1974.5.27死闘!巨象対巴投げ井上知士
101974.6.3母は強し!女三四郎山崎晴哉
111974.6.10秒の殺し屋!帯刀省吾山崎晴哉
121974.6.17男が売ったこのケンカ井上知士
131974.6.24命ぎりぎり!怒涛の対決伊東恒久
141974.7.1ライバルに向って立て!伊東恒久
151974.7.8見た!天地返しの正体を!!井上知士
161974.7.15必殺技への第一歩山崎晴哉
171974.7.22必殺!巴二段投げ!山崎晴哉
181974.7.29青い目の台風上陸!!伊東恒久
191974.8.5眠った奴は負けだ!井上知士
201974.8.12敗北のための勝利井上知士
211974.8.19出た!大竜巻落し山崎晴哉
221974.8.26血戦!宿命のライバル伊東恒久
231974.9.2回転 地獄ころがし伊東恒久
241974.9.9死闘!十文字じめ井上知士
251974.9.16鬼の告白山崎晴哉
261974.9.23母ちゃんを奪うもの山崎晴哉
271974.9.30柔の道、柔の夢伊東恒久
井上知士


キャスト
巴突進太(森 功至)
巴 輝子(沢田敏子)
利鎌竜平(池水通洋)
大東坊(兼本新吾)
帯刀昭吾(田中信夫)
ベン・ワーロック(野島昭生)
青江奈美(麻上洋子)
荒尾先生(阪 修・のち青野 武)
(上田敏也)(高田竜二)
(市川 治)(島 俊介)
(沢田和子)(北川知絵)ほか


というかんじでお届けしました記憶46回目。
18年ほど昔にNHKのBSで再放送されてましたね。
視聴者の子供はどう見たんでしょうね。
こんな泥臭い作品。こういうのが面白いと
思える世代って、結構限られてそうなんですが、
それら予備知識除いてまっさらな気分で見てもらえれば
意外とハマるかも。

次回は久々にスーパーロボット物の予定。それでは。




戻る  バックナンバー

inserted by FC2 system