看板

まず、最初にお断りを。
今回の記憶のかさブタは通常のバージョンではありません。
扱ってる題材が当時成人映画として作られたものであるため、
未成年の方、そういう物に不快感を抱かれている方には
不向きな内容になっています。
故に、そのことを重々承知の上で退場、もしくは閲覧下さい。
また、当時使用された言葉には現在不適切な表現もありますが、
作品の歴史的価値、研究の視点から修正を行っておりません。
どうぞ御了承下さい。


★未成年の方や、成人アニメに嫌悪感を催す方はこちらから退場して下さい。









幻のポルノアニメ特集
(2023・5・18記事追加)

記憶のコーナーも回を重ねる事31回。
今回は31回もやってきてスゴイ覚悟のいる企画です。
だって今回紹介するのは成人映画。
しかも40年近く昔に製作されたポルノアニメですから。
…記憶のかさブタ、という趣旨とは離れちゃいましたが、これが
実に興味深い世界なんですよ。しかもこれから紹介するアニメは
いずれも現在カルトムービーになってまして、好き者の間では
伝説化されています。いや、各作品ともエライ事になってます。

今回紹介する映画の時代背景について説明すると…

邦画界がどん底に落ち込んでいた昭和40年代中盤。
テレビの普及によって各映画の観客動員数が軒並み減少し、
各製作プロ、映画会社が次々倒産していたこの頃、
「まともなモノでは客を呼べない、テレビでは出来ない過激なものを!」
と、各社エロ・グロ・ナンセンスに救いを求めて、実に特異な異色作が
数多く作られました。
今見るとその変さ加減が凄まじく、
故にカルト的な作品が多く排出された訳ですが
昨今この頃の異色作が妙な人気を呼んでますね。
特にこの頃多くの観客を集めたのが「ポルノ」
なるほど。確かにこの頃のテレビでは出来ない代物です。
「300万円の制作費で5000万円稼げる」という状況でしたから
皆ポルノ映画を製作するのも無理ありません。
倒産した新東宝も「大蔵映画」となってからはポルノで稼ぎ、
倒産寸前の大映も終期はポルノまがいの作品ばかり。
日活に至っては会社の製作方針をロマンポルノに切り替えてからは
経営状況を安定させ、以降17年に渡って体勢を維持しました。
弱小のプロダクションでも安易に作れ、確実に損をしないのは
まさしくポルノしかなかった訳です。

さて、そんなポルノもアニメのポルノ、というとどうか。
「漫画映画」ともいわれていた当時のアニメ。アニメは子供のみるものという
一般の偏見があった時代(映画界の偏見はもっと凄かった)、
ポルノという大人の世界と動画、というものが共存できるのか?
という心配をよそに、虫プロが1969年に「千夜一夜物語」を発表。
成人向けアニメとして、随所にエロチシズムを盛り込んだ内容が
話題になり、国内外で大ヒットしました。
さあ、この「千夜一夜物語」のヒットにあてられて、
ポルノアニメは儲かる!と思ったか否か。矢継ぎ早に製作されたのが
これから紹介する幻のポルノアニメたちです。



(秘)劇画・浮世絵千一夜


1969年10月29日公開 配給・東映/製作・レオ・プロダクション

浮世絵千一夜ポスター

タイトルからも「千夜一夜物語」の2匹目のドジョウを、と狙ってつけたのは
明白なこの作品。作品の売りは「世界初!浮世絵が動く!」というもので
これだけ見るとスゴイアニメのように思えます。
北斎の富士の荒波がリアルに動くような
ものを勝手に想像してしまうのですが。どうもそうでは無い様子。

浮世絵が抜け出る?

ちなみにあらすじを紹介するとこういう内容。

浮世絵師・春斉は、呉服屋・江戸屋勘助から枕屏風の浮世絵秘画を頼まれた。
壁一つ隣の、仁吉とおとよの愛の実態をモデルに、春斉は、真に迫った秘画を描き上げ、
絵の男女を「春信」「おたま」と名づけた。
仁吉とおとよの呻き声に誘われて、春信とおたまは
屏風の中から抜け出し、仁吉とおとよを殺害した。

この事件を聞き、女同心・幻お流が乗り出してきた。
祭りの夜、春信とおたまは、またも屏風から抜け出た。
二人は、祭り帰りの若い男女と関係し、殺害した。
江戸の町はこの事件に湧いた。お流は三人の女弟子と捕物陣を張った。
ついに春信とおたまは取り囲まれたが、くいな流の達人・重藤左次馬が現われ、
女弟子を斬り、二人を逃がした。春斉の絵に目をつけた左次馬は、
春斉の家に忍び込み、おたまだけを連れ出した。
残された春信は、訪ねて来た江戸屋勘助の娘・おゆきを犯し殺した。
逃れてきた春信とおたまを連れて、大川端に逃げた左次馬は
お流の張った捕物陣が迫ると、春信とおたまを斬った。
二人は、よろめきながら春斉の家に帰り、屏風絵の中に入って息絶えた。
一方、捕手を皆殺しにした左次馬は、お流を、くいな流居合の一閃で全裸にすると、
ひるむところを乗りかかって犯した。
と見えた瞬間絶叫と共に、左次馬は悶絶して息絶えた。
お流の秘術「幻流くの一しぼり」の術中に陥ったのだった。



要するに浮世絵の人物が絵から抜け出てセックス殺人を繰り返し、
女同心(いるのか!そんなのが)が捕り物を繰り広げるが、
この絵を利用しようとする(何故?)素浪人に邪魔され取り逃がし、
追い詰められた素浪人は絵から出た男女を斬って逃げ(だからなぜ!)、
最後、素浪人は女同心を裸にひんむいて犯すも返り討ちにあって
劇終。なんじゃそりゃ。

ポスター横長版(提供・T氏)



ストーリーの内容が薄いなぁ。いくらポルノでも破綻してる。
最後に見せるお流の秘術「幻流くの一しぼり」というのは
交尾の最中に男の○○○をチョン切る秘術でして。いててて。
絵も浮世絵というにはあまりにもお粗末な代物です。
配給は東映ですが、製作はレオ・プロダクションという会社。
東映が2000万円でフィルムを買いつけてあの石井輝男監督のカルト作
「江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間」と二本立てで公開しました。(凄いカップリング。)
当初は動画の名門が何故よそから、よりにもよってポルノ動画を
買いつけて公開するのか、と、組合から公開反対の声も上がったとか。
その後、公開されて一週間後、警視庁からクレームが付き、
わいせつ個所のカットが要求されます。該当個所は
(性交を描いた浮世絵のカット)
(行為中の女性のうめき声)
(お流の秘術「幻流くの一しぼり」)

等の合計二分程が削除の対象とされ、公開中に該当シーンが
カットされたそうです。

さて、当時のキネマ旬報にて、この映画の批評が出ているのでご紹介します。


左次馬とお流の決闘。



(秘)劇画・浮世絵千一夜
製作したレオ・プロダクションなるものを私はしらない。いずれにしても虫プロの
「千夜一夜物語」のヒットにあやかろうという魂胆は誰の目にも明らかだろう。
いやはや、下には下があるものだ。失望の超大作「千夜一夜物語」も、
これに比べたら「不朽の名作」である。思うに、よろずピンク映画というものは
能うる限りきわどい光景を展開して男性観客を刺激すればいいのだ。
男にとっては性的興奮それ自体が快楽であり、つまり娯楽でもありえるのだから。
男優諸氏の熱演をひととき我が身に置き換えて、イメージ性交という
知的操作をする。それ以上でもそれ以下でもないのだ。
で、この「浮世絵千一夜」も成人向指定とある以上、ピンクの一環を
なすのだろう。(まさか「芸術」のつもりでもあるまいから)が、まず、
最低限その点で落第だと思う。哺乳瓶のゴムさながらの乳首に
感じる人がもしあり、とすれば、それはよほどの母牛(母親、の誤植にアラズ)
コンプレックスであろう。なんのかんのといっても、虫プロの「千夜一夜物語」
には、白蛇の精の抽象的なセックスシーンのように、1つ2つは印象に
残るものが無いではなかった。が、「浮世絵千一夜」(この題名を書くのが
イヤになってきた)
には、それがない。なんにもない。
歯医者の待合室に転がっているマンガ週刊誌のエロ劇画の方がまだしも
プロポーションがちゃんとしているし、第一、ヘタに動かないだけでも良い。
動きさえしなければ、ガタも、ビリつきも、セル傷の反射もゴミのちらつきも
無くて、したがって耐える苦痛からも開放される。無上の喜びだ。
不思議でならないのだが、昨今の世の中、たつきの道はいくらもあると
思われるのに、なぜこういうアニメーション(おお!)をこさえる気になったのだろう。
どう手を抜こうと質を落とそうと、それが手工業であること、したがって
効率の悪い、不経済なものであることをまぬがれる事は出来ないのに…。
強いてアニメ的な趣向を言えば、屏風の春画から男女が抜け出て
人を殺す、という程度。ソ連漫画の「黄色いこうのとり」か、落語の
「抜け雀」の発想だろうか、などと書くと観ていない人から、何か結構な
もののように誤解されそうでおそろしい。(中略)
背景の看板の文字の欠字などのことあげは、あるレベルに達した作品について
はじめて指摘すべきことだろうし、とにかくこれほど退屈かつ不快なものが
娯楽としてまかり通るのだということが、金五百円也と一時間十分を
費やして私が得た貴重な教訓なのである。

キネマ旬報の評論家・ 森卓也氏の寄せた感想ですが、
見事なほどにボロくそ。
実際、残されたスチールみても

当時のスチールより。



こういうのだから、作画も良いとはとても言えないです。
先に述べたように、話もお粗末な感じですしね。
結局、名実共に時流に乗っただけの愚作、と
言えばそれまでですが。

本作品はその後再上映される機会も無く、
(2番館3番館での上映や穴埋め上映程度に使われた可能性は
充分ありますが、証拠を示す資料が無い…)

歴史の闇に埋もれていきました。
その後、東映芸能ビデオから短縮版(60分)のビデオテープが1980年頃に
50000円で発売された記録(商品カタログ)がありますが、
現在のところソフト化で明らかな記載が確認できるのはこれのみで、
以降のソフト化は無く、また原版の行方も判然としません。

(2023・5・19記事追加)

興味深い記事として、ジ・アニメ創刊一周年記念対談の頁から、
手塚治虫・松本零二・石森(石ノ森)章太郎・九里一平・森康二の会話を以下に抜粋再録。

ジ・アニメ創刊一周年記念特別企画対談
手塚「アニメーションの関係の方はまじめな方が多いですからね。」
石森「しかし外国なんかだと名作アニメのポルノ版と言うかパロディもあるようですね。」
松本「日本でもありましたね。最近東映で見たけど(浮世絵千一夜)。」
手塚「僕も10分くらい見たけど、あとは疲れてしまって見なかった。ところであれ、面白いの?」
松本「うーん」
石森「あのフィルム、僕は持ってるよ(笑)。」

石ノ森先生、プリント持ってらっしゃったんですかぁ!
さすが生粋の映画マニア。

(秘)劇画・浮世絵千一夜  スタッフ
脚本・演出/レオ・ニシムラ
原画監修/上野春楽
原動画/熊沢年男・小松原 宏・村田秀男・金沢幸男
撮影/荒牧国繁・佐藤るみ子
音楽/カナリ良則とファイブサンズ
美術/勝又譲治
背景/赤保谷愛花
録音/東音スタジオ
編集/中島照雄
ワイド・フジカラー・6巻 1918m
上映時間1時間10分
キャスト
女同心・幻お流…滝 かおる
福助…大久保 伸
梅の幻斎…妻木一平
浮世絵師春斎…山田卓司
重藤左次馬…野坂竜太
春信…若山昌夫
おたま…三浦由紀子
江戸屋ゆき…原 みちよ
おなみ…藤原けい子
おとよ…牟永君代
江戸屋勘助…桂 太郎
頓兵衛…秋山連作



(2022・5・26記事追加)

好色日本性豪夜話


1971年3月2日 ОP・恵通チェーン系公開 制作/六邦映画株式会社

ポスター(提供・つくだやま氏)

1971(昭和46)年、成人映画製作会社の六邦映画から突如発表された異色のパートアニメラマ映画がこれ。
日本昔ばなしを題材にとり、導入部分をアニメで作り、
本編と官能シーンは実写で俳優さんがハッスルするという構成になっています。

黎明期の成人映画チェーンの作品故に一般の映画情報誌では黙殺され、
パートアニメ作品ということもあってアニメ映画としても認識されず、
その存在が知られる事も無いまま歴史の闇に消えていった異色ポルノ。
近年になってフィルムが発掘され、上映会が行われた事でその存在がようやく明るみになりました。

私は上映会には時間の都合がつかず行けなかったのですが、
友人が上映会に参加しその詳細を事細かにレポートして頂いたので、
以下に記載させてもらいました。

ポスター内画像(提供・つくだやま氏)

概要とあらすじを紹介するとこういう内容。

冒頭、唐突に「21世紀はSEX革命の世紀となることが識者により論じられている」などと、
男女の営みについてのご高説が始まります。
牡丹の花と百合の蕾を組み合わせ、交合を連想させるカットからオープニング・タイトルへ。

この作品、モチーフとなった昔話パートの冒頭部をアニメで表現するという構成を取っています。
秒4〜6コマ程度のカクカクアニメで昔話が童謡とともに始まりますが、
絵の印象は、昭和年代の地方CMで流れていたアニメの品質に近い。

第一話は一寸法師ならぬ「一寸太郎」。姫様が鬼に襲われている中(着物がはだけます)
一寸法師が鬼を退治し打ち出の小槌をゲットするまでがアニメ。その後
いきなり実写になり、打ち出の小槌で青年になるも、
ペニ○(劇中でもペ○スと言ってる。時代劇なのに)は一寸太郎サイズのまま。
大きな体に小さなチ○コ、こりゃ困ったぞ!というトコで第一話終了。

第二話は「かぐや姫」。翁が竹を割って娘を手に入れ、
成長するまでのくだりがアニメ。結構短い。
直後、おもむろに実写パートが始まりますが、何やら庭の花?が妖精になって
子役が踊るというシュールなカット。(成人映画に子役…)
音楽を奏でるかぐや姫は畳敷きの部屋でギターを爪弾くというさらにシュールなカット。
婿候補に宝物を探し届けよという無理難題を与えるという展開がメインなのですが、
この宝の名前が「まんげ鏡」(成人映画ですからねぇ)…。
3人の婿候補はそれぞれ森に宝を探しに行きますが、
妖怪の老婆にそれそれ色々と手篭めにされて動物にされてしまいます(…)
最後の一人になったところで、なんと一寸太郎が再登場。
「まんげ鏡を手に入れれば性のお悩みなんでも解決!」
森に落ちてたガマガエルの瀬戸物から教えられ
(この瀬戸物、老婆の魔法によって変えられた村人…という設定らしい)

色々あってまんげ鏡ゲット。かぐや姫と結ばれるも、
このかぐや姫がスキモノで、次々と男を捕まえてはいんぐりもんぐり(…)
そのくんずほぐれつな姿態を見せることで
一寸太郎に元気をつけてもらおうという流れらしいのですが…。
なんのかんのあってかぐや姫が月に帰って終わり。

第三話は「鶴の恩返し」…なのですが、
なぜか冒頭から無事巨大なイチモツを手に入れた
一寸太郎がババンと登場。ご満悦な太郎が浜辺で寝てると、
そのイチモツに目が眩んだ鶴が海に落下(なんで?)
それを太郎が救うという、ここまでアニメ。
ある意味、すごい変化球で話が始まります。
で、この鶴パートは比較的純愛っぽいというか、
愛をテーマにした性描写が割と多い構成。
森のあばら家みたいな民宿で添い遂げたのち、
無事に二人は結ばれ、男の子も授かる(またも子役)
愛し合う二人の濃厚なラブシーンが続く中、男の子が目覚めると、
そこには鶴とまぐわうお父ちゃんが!!(男の影絵にアニメの鶴がかぶさる感じ)
…なんだかんだあって、これからも一緒に生きていこうということで、
まんげ鏡を滝に投げ入れてハッピーエンド!
(このラストにも、実写の水に光がアニメで挿入されてます)
…というお話。めでたし、めでたし?

この映画、タイトルは「性豪夜話」とご大層ながら、艶笑昔話パロディな作品なのです。
(つくだやま氏のtwitterより抜粋・一部再構成)



要するに日本昔ばなしの艶笑版ですね。
そういうOVAものちのちJHVから出ましたが、こちらはその先駆け?
実際、昭和の観光地では艶笑民話の小冊子とかが土産物店で売られていたりしましたから、
昔話のエロス版というのは土着的風俗として馴染みがあったのでしょう。


劇場ロビーカード(資料提供・つくだやま氏)



映画の詳細を調べると、同社の成人映画としては結構力を入れた作品だったようで、
当時の成人映画(まだポルノという言葉は定着しておらず、ピンク映画と呼ぶのが一般的だった)は、
基本パートカラー(官能シーンなどの客が目当ての個所のみカラーフィルムに。それ以外はモノクロ)が関の山だった時代。
それが83分オールカラーで、しかも短いとはいえアニメーションも導入されています
(分数は不明ですが、各話の1/7程度・まとめると一巻分[13分前後]位と推測されます)

劇場ロビーカード(資料提供・つくだやま氏)


当時のピンク映画予算は一本300万円(現在のレートだと約3000万円)が基本でしたが、
オールカラーでアニメパートもあるとなると、おそらく1000万は裕に超えてるんじゃないかと推測されます。
(それでもまあ、通常の大手配給映画の製作費と比較すると低予算ですが)

ポスター画像(資料提供・つくだやま氏)



実際、成人映画雑誌の賀正挨拶の広告欄に「創立五周年記念超大作」の文字が躍っており、
会社としても相当気合の入った作品だった事が伺えます。
(作品題名が完成作と異なってますが、変更前?あるいは誤植?)

六邦映画賀正広告(雑誌「成人映画」より)


スピードポスター(資料提供・つくだやま氏)
ただ、そうは言っても、悲しいかな昭和40年代の成人映画。
予算も時間も人員も驚くほど少ない過酷な条件下だけあって、
昔話と言いつつも広角で捉えた風景の奥に国道を走る車とか電信柱が映ってたり、
主人公たちが歩く横にホルスタインがいたり、川は護岸工事がされていたりと、
所々にみられる「低予算映画ゆえのやっつけ感」がモロ見えで、
細かいとこなんか気にしちゃいらんねぇ、なイイ加減さも目につくようです。

アニメパートは先述のように「昭和の地方CMレベル」。
特筆すべき点は特にないのですが、
本編内容とのバランスを考えればこれが良い味を出しています。
なんというか、珍味と珍味が互いの味を引き立て合う、と言いますか。
動画監督は「しまのりひこプロ」の島紀彦さんという方で、
アニメ史としては出自等が不明の作家さん。
ただ、当時の児童向け漫画や、
イラストレーターで「島のりひこ」さんという方がおり、
おそらく同一人物である可能性は高いと思われます。
作画担当は栗原達夫さんという方が
名前を連ねていますが、ネット情報によるとこの方、
星の子ポロンのスタッフとの関係が
あるかもしれないとの指摘も。
あくまでも未確認情報なのであしからず。
出演者に椙山拳一郎氏や二階堂 浩氏が名を連ねていますが、
大蔵映画でもお馴染みの二人ですね。同じ名を「生首情痴事件」
「怪談バラバラ幽霊」
でも見ましたし。二階堂 浩氏は情報によるとその後
「伊海田 弘」と名前を変えて、「スーパーロボット・マッハバロン」の
ララーシュタイン総統を演じられた俳優さんと聞きます。
伊海田さん曰く、ララーシュタイン時
「長年役者やってて子供からファンレターもらったのは初めてだ」と
喜んでいらっしゃいましたが
この映画ではどのような役で出ていらしたのでしょうか?マッハバロンと違い、
子供が見る事の出来ない映画ではありますが。

しかし半世紀以上も前に上映され、以降埋もれた珍品ピンク映画が、
21世紀の今日になってよもやこんな形で蘇り、
再評価されるとは当時誰が想像したでしょうね。







好色日本性豪夜話  スタッフ
監督/図師 巌
脚本/星 雅二・霧島左京
動画監督/しまのりひこ
作画/栗原達夫ほか

音楽/Roll Out

上映時間1時間23分
キャスト
椙山拳一郎
林 美樹
祝 真理
乱 孝寿
杉 夕子
光丘和代
筧 典子
武藤周作
二階堂 浩
吉田 純
島たけし
笹木 保
冬木京三

(情報・資料提供・つくだやま氏)



ヤスジのポルノラマ・やっちまえ!
(DO・IT!)

1971年9月24日公開 配給・日本ヘラルド映画/製作・東京テレビ動画

やっちまえ!公開時チラシ(資料提供・T氏)

虫プロの成人向けアニメ「アニメラマ」第二作のクレオパトラの後を受け、
配給元のヘラルドが持ちあげた異色の企画がコレ。
それまで「男一匹ガキ大将」「赤き血のイレブン」などのテレビ動画専門に作っていた
新興の動画製作会社・東京テレビ動画が劇場用長編動画に初挑戦。
セル画四万枚・製作人数二万人・(!)製作期間7ヶ月・
制作費7千万円
を要して作り上げた話題作です。

第一章「私生活」のスチール


当時、時代を代表する新感覚の漫画を発表し、喝采を浴びていた
谷岡ヤスジの原作を元に長編用に内容をアレンジ。
それを更に平均年齢22歳のスタッフがエネルギッシュな作品にした…のですが。
あらすじはこんな感じ。読んでて変にならないで下さいね。

プス夫(資料によっては「ブス夫」)はいまだチョンガー(独身男)である。
金もなく、モテずのプス夫は、性の飢餓で悶々とした日々を送っている。
今日も、下宿のオバさんにプス夫はどやされた。たまりかねて彼は風呂に行く。
番台にいるのはテッキリ、バアさんと思っていたプス夫。
ところが番台に座っていたのはボインのかわいこちゃんであった。サァあせったプス夫。
下着は汚れたまま、身体にはノミに喰われた後がビッシリ。
何んだかんだと理由をつけて帰ろうとするプス夫。そうはさせじとする娘。
数日後、プス夫は、ある自動車メーカーに職を得た。
そこでも彼は仕事なんぞそっちのけ、女、女と探しまわる。
そんな彼にも幸運の女神がほほ笑んだ。
やっとのことで見つけた相手はユキ子というカワイコちゃん。
しかし、ユキ子にはエリート課長(本編では「部長」)が目をつけていて、
うらぶれ果てたプス夫に、ユキ子はなびいてくれない。
彼はユキ子の気持を引くために、欲求不満の女たちを相手に車を売りまくる。
己の下半身を最大限に利用し、セックスセールスマンと化すプス夫。
売上が伸び、成績を上げたプス夫にユキ子の心もにわかに傾き始める。
さて、なんやかんやあって(最終的には包丁で脅して)晴れてめでたく
婚約のはこびとなった。そしてやっとのことでホテルにたどりつき、
バラ色の初夜がきた。しかし、ホテルでバッタリ出会った昔の悪友。
プス夫が待ちに待った初夜だというのに、結局マージャンにつき合わされた。
その間、新妻ユキ子は窓から飛び込んできたムジ鳥に犯された。
結婚五日目に、ユキ子はムジ鳥との間に出来た奇形児ムジ夫を生んだ。
このムジ夫、生まれたその日に女を犯してしまうすさまじさ。
それからというものプス夫にとって混迷と地獄の日々が続いた。
毎晩、ムジ夫はポルノ雑誌を読みふけり、
となりのヤル子ちゃんとアクロバティックなセックスを公開する。
それを見ていたプス夫、自信をなくし、遂にインポにおちいった。
その上、彼が病院に通っている間、ユキ子とオヤジは姦通したのである。
オヤジはユキ子の上で腹上死。その惨状をみて遂に狂ったプス夫。
オヤジ愛好の関孫六(日本刀)をひきぬき、
女房のユキ子をケサガケに斬り倒す。すべてを失ったプス夫は完全に発狂。
人間社会から逃げるようにして動物園に向った。
ゴリラのオリの前に立ったプス夫は、メスゴリラに誘われるように入っていった。
そこで彼は、メスゴリラと至福の交合をして、自らの腹をかっさばいた。
薄れゆく意識の中、プス夫の脳裏には走馬灯の様にかつての独身時代が甦る。
やはり、結婚は諺通り"人生の墓場"だったのだろう。プス夫にとっては……。

一番メジャーなスチール。

(上映当時のキネマ旬報・作品紹介あらすじ記事より)

あまりにもぶっ飛んだ、かつ無軌道な内容。
シュールともアヴァンギャルドとも言えない、なんとも珍妙な内容。
近親相姦や幼児姦、獣姦に強姦とハードコアの要素が
いっぱい詰まってるにもかかわらず、それを上行く「狂気」が作品を支配しています。
色彩は基本的に原色を多用している為、かなりサイケデリックな印象をうけます。
画面では性行為の場面になると、オ○ンコマークがスクリーン一杯にドン!と出るので、
結構笑えるのですが。
映画は3部構成になっていて、
第1章「私生活」第2章「経験」第3章「めまい」という題がついてます。
当時の人気歌手・辺見マリのヒット曲からの流用で、
各章の妄想・性交シーンにBGMとして使われています。

名物「アサ−」


製作の東京テレビ動画にとっては社運を賭けた初の劇場用長編動画。
公開前の各方面からの期待も高かったようで、
原作者・谷岡ヤスジ氏も映画の成功を期待し、当時こういう文を寄稿しています。

動き出したムジ鳥     谷岡ヤスジ
動かない、印刷された紙の上の絵に、いかにダイナミックで
メッタメタなパワーを注入するか、というのが
われわれマンガ家の仕事の勝負である。
もっと言わせてもらえば、そのパワーにのっけて、
乾いたエロチシズムをどう紙の上に一気に展開させるか、ということだ。
以前に天然色映画のスクリーンで見たマリリン・モンローや
ブリジッド・バルドーのイメージの残像を昨日食べたスルメの切れっ端しを
歯のスキマからセセリ出すみたいな具合にハンスウしながら、
エイヤっとペンを画用紙にたたきつける。
しかし、しょせん紙の上の絵は本当には動き出してはくれない。
クヤしいから、次の仕事ではさらにさらにアクセントを強く、
果たせぬ夢の挑戦をやる。その連続が、言わば私の仕事みたいなものである。
ところが東京テレビ動画という物好きで好奇心旺盛な会社が、
わがマンガを アニメにして動かすという。
しかも、モンローやベベの映画と同じ天然色ワイドの映画にするというのだ。
ラッシュ・フィルムで本当にわがムジ鳥が動き出すのを見た時には
正直言って「ヤヤッ」と、夢の実現に画面がカスんで見えた。
プリント完成の今は、怖い映倫のオジさんたちの眼を、
わがポルノラマ映画「やっちまえ!」が無事スリ抜けて世に出るのを、
わが子の旅立ちを見送るような心境で、祈るのみなのだ。

濃厚?なキスシーン。

さて、鳴り物入りで製作された「やっちまえ!」映倫からクレームが早速つきました。
ラストのプス夫の切腹シーンが昨年の三島由起夫の自決を連想 させるとの事から、
全面的にラストが撮りなおしになったのです。
当時の事件による時代背景故の修正要求だったのです。
無論、性描写についても過激な個所は修正させられたようですが。
いろいろあってようやく公開したものの、
内容も先に述べたような内容ゆえ評判は芳しくなく、
(今ならカルトムービーで評価もされるかもしれないけど)
2週続映公開の予定が1週間で打ち切り。
当時の映画雑誌より批評文を掲載してみました。

ヤスジのポルノラマ・やっちまえ!
どこかとりとめなく、あいまいで抽象的な感覚が現代の都市生活にはつきまとっている。
サラリーマン漫画が最近読者をひきつけるようになったのも、
そうした空虚な生存の感覚をいち早く身につけた、
製作側の都市感覚が、その作品ににじみ出ていたからに違いない。
(中略)
(谷岡ヤスジの漫画の傾向は)薄汚れて、みじめったらしい男が、
常に最後には抑圧が爆発し、「オドリャ−、しまいには血見るド」と
手当たり次第にぶん殴り、殺してまわる。
時に鼻血を「ブウッ」とばかりに噴出するのも、抑圧された精神の
一種の発散であり、肉体の爆発なのに違いない。
ある時期、この「鼻血ブウッ」が流行語にまでなったのも、
見る側の心のどこかにその爆発が微妙に接触し、共感を呼んだからであろう。
期待に全身たぎらせるブス夫。

だが、平均年齢22歳と若さがウリのスタッフは、この映画で観客との接点を
こうした都市感覚に求めず、セックスという肉体の一部分に全てを帰結してしまった。
映像処理が一番自由に出来、かなり制限が大幅に許容されている
アニメーションだと言う事があったとしても、徹底して視点を人間の
肉体の一部でしか無いセックスに絞った事は、
原作が僅かでも持っていた精神を見失わせる結果となり、
なにか、極端にまでデフォルメされた主人公の空虚な残像だけが空しく残る結果となっている。
もともと谷岡のマンガはいくら爆発したところで所詮負け犬のでしかないというところに
欠陥があった訳だが、そうした単細胞的動物の単純な行動の羅列では、
限られたコマで見せるマンガとは違い、何十、何百、何千、何万という
原画の組み合わせで見せる長編動画の場合、観客を満足させることが出来ないのは、
これまた当然でもあろう。「第一章・私生活」の中でこそ、
夢と現実の混合の中に、まだしも強烈な自意識を見せたブス夫が、
父親と妻を殺したあげく自分の腹をかっさばいて、セックスに乗って昇天するラストに、
なんとも言えない「70年代の楽観主義」が後味悪く感じられて
仕方がないのもそのためである。


こちらはキネマ旬報の評論家・浅野 潜氏の批評文。
要するに、アニメには向かない、と言われてしまったのである。
エライ事。動画映画にとっては死刑宣告のようなものであろう。
先の「浮世絵〜」にくらべると文章は柔らかいが…。

当時のスチールを複製着色。



こちらは有文社刊・「日本アニメーション映画史」の評価。

ヤスジのポルノラマ・やっちまえ!
漫画家・谷岡ヤスジ(昭和17年愛媛生まれ)の一連の漫画を
原作に製作したポルノ動画。
「鼻血ブー」「オラオラオラ」など、四十五、六年頃の流行語を作り、
「アサ−」と叫ぶムジ鳥なるキャラクターを描いた谷岡マンガは
男女のセックスを大胆に取り上げ話題になった。
製作の東京テレビ動画はTV動画「赤き血のイレブン」「男一匹ガキ大将」などを
製作したが、虫プロの大人用長編動画の成功で、ポルノ動画の製作に踏み切った。
映画は三章から構成され、
第一章「私生活」では主人公ブス夫の独身時代のセックスを描き、
第二章「経験」ではモーレツサラリーマンとなってセックスを武器に車を売る。
第三章「めまい」では結婚をしたものの破局を迎え自殺する。
「私生活」「経験」「めまい」は当時の歌手・辺見マリのヒット曲名。

映倫のクレームで十一ヶ所がカット。ラストのブス夫の割腹自殺のシーンは
三島由起夫事件を連想させるとの事で撮り直された。
女性自身がひんぱんに出てくるので製作の女性スタッフは「恥ずかしかった」そうだ。
結局、時流に乗っただけの作品で、内容も何もない愚作に終わった。

名物「鼻血ブー!」。

結局、愚にもつかない駄作、と切り捨てられてそれっきり。
興行的にも作品的にも全く評価される事無く作品は封印され、
製作の東京テレビ動画は直後に解散してしまいました。
(その後、東京テレビ動画の残党は新会社「日本テレビ動画」を設立。
「ミュンヘンへの道」「モンシェリCOCO」そしてあの旧シリーズ「ドラえもん」を 製作。
ドラえもん放送中に突然会社を解散させ、完全に消滅します。)

が、この「ヤスジのポルノラマ・やっちまえ!」がその後意外な 形で再評価されます。
後にプリントがアメリカにわたり、 「DO・IT!」の題で公開され、
大ヒットを飛ばします。
(以上の情報はゆうばり国際ファンタスティック映画祭・
 上映作品紹介HP文章より抜粋。
 15億円の興行収入があったという情報も
 あったものの出典元が不明な為現在調査中。)

日本では2004年に川崎ミュージアムの谷岡ヤスジ展で記念上映が行われ、
その後2005年2月にゆうばり国際ファンタスティック映画祭でプレミア上映。
その後久しく上映がなかったものの2018年、東京国立近代美術館フィルムセンターで
「発掘された映画たち2018」の一本として限定上映されます。

製作元がとうの昔に倒産・解散したこともあって
版元が判然とせず、長い間迷子映像著作物として
宙ぶらりんの状態が続いていましたが、紆余曲折と関係者の努力の結果、
上映から48年後の2019年10月2日に
DIGレーベルから遂に初ソフト化。幻といわれた狂気のごとき作品も
ついにお茶の間で見れる運びとなりました(いいのか?いいとしよう)。
皆様もこの機会に御覧になられては如何でしょうか。
ただ、観終わった後の精神衛生状態は保障しかねますので、あくまで自己責任で。


本編視聴後感想と考察(2019.10.10・10.14追記)
DVD観賞終了後、個人的な感想や考察やらをいくつか記載。
(ネタバレあるのでご注意下さい)

冒頭の第一章「私生活」はあらすじに記載されていた銭湯のシーンがまるまる消えてましたね。
その反面、ガールフレンドとのデート場面(寝過ごしてフラれる)
隣人との間男シーンなどが新たに散見出来、銭湯シーンはこれらに
差し替えられた可能性もあります。物語にはあらすじ紹介には無かった
欲求不満の痴女も登場。オヤジが途中上京してプス夫の下宿で
乱交パーティーをするのですが(雨森雅司さんが絶品)
途中息子と軽い殺し合いがあって、「死ね!」「生きる!」のやりとりがあったのには
「おお、FUJIWARAのギャグを40年前にやってたのか!」
プチ感動(してどうする)
まあ、この章はとにかくモテない男の悶々とした日々が描写されます。
いや、女っ気だけば豊富にあるんですけど、結局手が届かず終わる、みたいな。
最後夜の公園で自慰してコケて、無残な醜態をさらして突然第一章は終わります

第二章「経験」は、プス夫のセールスマン生活が中心。インキン伝染して女性が喜ぶって
どういう事なのやら?プス夫がОLグループにイジメられて、逆にセックスで抑え込むという
一連の描写は、セクハラだパワハラだというワードの無かった時代ゆえの産物。
朝のエリート社員の特訓やらハチマキ部隊だの、昭和40年代のモーレツ社員風潮を
アニメートしたような描写が時代を感じさせます。
プス夫の恋敵たるエリートも、本編では「課長」ではなく「部長」に。プレスシートにも
「課長」のままの表記で掲載されているので、アフレコの時点で変更になった?
酒をたらふく飲ませて立小便を誘引させ、その現場をユキコに目撃させて
彼女をプス夫から奪い取るという部長の作戦って、回りくどい上に馬鹿すぎる。
それにまんまと乗って部長ラブになるユキコもバカだけど
刺身包丁持って殴りこみユキコを強引に娶るプス夫は更なるバカ。

第三章「めまい」は新婚旅行とその後の生活が舞台なれど狂気のオンパレード。
あらすじ紹介どおりユキコはムジ鳥とヤりますが、むしろユキコが積極的に
ムジ鳥を誘い込んだような感じ。欲求不満だったのね。結果生まれたムジ夫に
以降の家庭はひたすらグチャグチャにかき回されるのですが(黄色い体というのは
ヒヨコって意味でもある様子)
、息子の傍若無人なセックスバトルや、オヤジの
腹上死シーンなど、崩壊のジェットコースターが止まらなくなっていきます。(関の孫六を
最初に引き抜いたのはユキコだった)
逆上したプス夫は唐獅子牡丹の高倉健に
変身し、ユキコを正中線から一刀両断。真っ二つになってユキコは果てます(ケサガケでは
無かった)
。プス夫は「地獄だぁ〜」と半狂乱で飛び出し、一人家に残されたムジ夫は
真っ二つで果てた母と昇天した祖父を無表情で眺めながら飴をしゃぶってます。
(このあたりが狂気)
「おお神よ」と半狂乱で呟くプス夫は、オオカミが居そうな「動物園」に(シャレ?)
門を乗り越えて侵入。ここでメスゴリラとの性交シーンになりますが、これが実に狂ってる。
メスゴリラはプス夫を膣内にねじ込むと、負けじとプス夫は膣内を掘り進み子宮にまで達し、
卵巣にむしゃぶりつきます。(画だと卵巣というより卵管采)膣から出てきたプス夫は
羊水をふき出し、口の中に入ってたゴリラの胎児を吐き出す…。こんな狂った場面に
副主題歌の「ロンリーブルース」が延々と流れます。なまじイイ歌だけに困惑することしきり。
しかも一切セリフ無し。これはプス夫が完全に発狂しているが故の演出処理?
その後、突然曲が「海ゆかば」に変わり、プス夫はメスゴリラの乳房を吸い破ったあと、
ゴリラの腹の中に入って、中から胃袋を刀でつんざいて惨殺。ゴリラの亡骸を背に
「檄」の文字と共に、自らの腹をかっ斬って自害。(この場面だけ妙に劇画的に処理)
突然場面は宇宙に変わり、男根型ロケットに乗って昇天していくプス夫の
「やったやった〜!」という半狂乱の絶叫と共に映画は終了するのですが…。

書籍では
「ラストの切腹シーンが三島由紀夫を想定させるため全面的に撮り直しとなった」
という事になっているのですが、これが撮り直したシーンとすると、
本来のシーンとはどのようなものだったんでしょうね?
さながら「楯の会」を思わせるような服装にプス夫がなっていたとか?
あるいは介錯で首が落とされるシーンがあったとか?
それなら撮り直しも合点がいきます。あらすじ解説にあったラストの走馬灯のシーンも
映画には存在せず、脳天気かつ狂気なプス夫の昇天シーンがあるだけ。
上映時間も資料本にあった1時間41分ではなく、1時間36分。
これはどう考えたらいいのやら。2005年2月の
ゆうばりファンタスティック映画祭での上映時間表記は101分(1時間41分)だったのに。
差分の5分は一体?

「映倫のクレームで十一ヶ所がカット」とありましたが、
これは随所に出てくる半透明の手のマーク(股間に舌を這わせるシーンや
女性の股に割り入って腰を振るシーンなど)
の他に、
当時の新聞広告には映像ソフトには無いカットも見受けられるそうなので、
映像処理とシーンごとカットの2種類あったのかと推察されます。
半透明の手は明らかに後付けな感じ。
ムジ夫の読んでる洋ピン雑誌は黒モジャ処理だから、
局部修正に統一性が無いのはそういう事なのかなと。


プレスシート内のあらすじと実際の映像の違い

今回DVD特典についてきた公開時のプレスシートに
映画のあらすじが書いてあったのですが、これが本編に無い、あるいは異なる
描写が多く散見出来ます。

@冒頭、公園に行く前にプス夫がオ●ニー用のティッシュを買いに薬局に行くも
 ツケが溜まっていた為に断られるシーン

A欲求不満を解消する為、公園に得意の「ノゾキ」をするため
 精力増強目的の牛乳を購入・飲むシーン

B東北本線(ディーゼル機関車)に乗って田舎に帰る
 オヤジと上野駅で涙の別れをするシーン

Cエリート課長がプス夫からユキコを奪う為
 デートの場所に先回りをして尽く水を差しまくる妨害シーン

D「これで地獄は終わったのだろうか?」切腹したプス夫の
 もとに救急車のサイレンが近づいていくシーン


何れも本編では影も形もありません。最初のあらすじ紹介で書いた
銭湯のシーンもそうなのですが。一番驚いたのは5番目。
死んで終わったのではなく、これだと救急搬送されて助かり、
結果、生き地獄が続くかのような印象を受けますが。
そう考えると、映画どおりのラストで良かったのかもしれません。

上映館と上映期間ついて。

では、当時この映画がどこで、どれくらいの期間上映されたのでしょうか?
これについて当時のキネマ旬報がこのような文を寄せています。

鼻血ドバー!!のポルノラマ
(キネマ旬報1971年10月上旬号175Pより)
洋画ロードショー・チェーンへ出る邦画を紹介しよう。
九月下旬から新宿東急・丸の内東映パラスへ出る「DO・IT!やっちまえ!」だ。

この映画はアニメーションで谷岡ヤスジの作品を映像化したのだが、
ポルノラマと銘うたれているとおり、アニメでセックスシーンが随所に登場する。
漫画が漫画なので、従来のシリアスなのとは違い、
漫画的な面白さでみせており、いやらしさのないのが救いだ。

この二館チェーンはポルノ映画を上映している劇場で、
そういうイメージができ上がっているのだが、
そこにアニメーションが出ても、
今迄のこの劇場の固定客に対しては、そう大きな期待はできないだろう。
この映画の持味である漫画の面白さ、
谷岡のファンなどの若い層へのアピールができた時は、
このところの壁となっている三週間興行を破る事が出来よう。
ポルノラマという言葉も初めてなら、漫画を漫画らしく映像化したのも初めてなので、
そういう意味ではかなりいけると思うのだが。

不安は従来のイメージとまったく違う作品、というところだが、
この二館(新宿東急・丸の内東映パラス)にかかるという事で、
大きな意味でこの作品がヒットして、
この二館のレパートリーが拡がる事を期待するのだ。
本誌(キネマ旬報)の読者のような通のファンには、
この映画のテーマ、つまり「人間は行くところまで行くと死しかない」と
いう事が理解できるだろう。
平均22歳のスタッフが精魂込めて作ったものだというだけに成功してほしい。


(一部、文章を読みやすくする為再構成しています。)


前売り券 通常、洋ピンを流してる劇場がメインとなって、
「やっちまえ!」が上映されることを危惧するような文が寄せられていますが、
まさにその通りで、いつもの客がいつもの感じでポルノ見に行ったら
「なんだこの漫画は!」と、憤慨されることも予想されたのは
想像に難くありません。右の前売り券を見ると、
どこにも「長編動画」や「アニメーション」の文言がありませんが、
やはりこれは従来の観客層は「漫画映画だと観に来てくれない」と
危惧したが故の仕様なんでしょうね。
メイン宣材は本編とは何の関係も無い
ボディペインティングヌード女性ですし。

全国何館で上映されたのか、正確な数字は不明ですが
(1971年当時、封切り日に全国で一斉に公開というのは通常の事ではなく、
地方は遅れて公開されたり(あるいは二番館落ち)、
公開されぬまま終わることがざらでした。
当時は二番館よりさらに遅く公開される三番館という
形態もあって、さすがに膨大すぎて追い切れない… )

封切り日に公開された劇場でどのくらい「やっちまえ!」が
公開されたのか、調査してみました。

都市名劇場名上映期間
東京丸の内東映パラス9/24〜10/1(8日間)
東京新宿東急9/24〜10/1(8日間)
愛知シネラマ名古屋9/24〜10/1(8日間)
大阪梅田日活オスカー9/25〜10/1(一週間)
大阪なんばロキシー9/25〜10/2(8日間)
大阪近鉄上六劇場9/25〜10/1(一週間)

まあ、ものの見事に三大都市の封切り館はすべて1週強で打ち切り。
ヘラルドのお膝元の名古屋ですら、
当初の予定たる2週続映を果たせなかったわけで
興行的に大失敗だったということがこの結果を見ても解ります。
封切り館でこの惨憺たる成績だったから、はたしてどの程度の数の
二番館(もしくは三番館)が「やっちまえ!」を小屋にかけたのやら…?

劇中の音楽について。

主題歌の「ドバ・ドバ・ソング」はオープニングとエンディング、
またBGMとして第二章のクラブのシーンにも使われていましたね。
またアレンジのインストゥルメンタルBGMも作られていて劇中で流れていました。

副主題歌の「ロンリーブルース」は第一章のラスト、
第二章のクラブのBGM、第三章のゴリラ性交シーンと
主題歌より印象的なシーンに使われています。曲調はさながら当時のヒット曲
藤圭子の「夢は夜ひらく」加藤登紀子の「ひとり寝の子守唄」な感じの
鎮魂歌の如き暗い昭和ムード歌謡。劇中では都合3番分までしか聴けなかったのですが
一番あたりの曲が30秒程度と短いので全長版はもっと長い可能性も。
イイ歌なんでCD化出来ませんかね?オープニングともども。

挿入歌たる辺見マリの「私生活」「経験」「めまい」はほぼフルバージョン使用。
「私生活」は第一章のプス夫の夢精妄想シーンに延々と流れ、
「経験」は第二章の年増OLとのセックスバトルロイヤルシーンに、
「めまい」は第三章、ムジ鳥とユキコの姦通シーンに使用されていました。
三曲ともエロシーンのBGMとして使用…。辺見サイドはよく許可しましたね。偉いっ。


確かに、一通り見ると、いろんな意味で狂った映画ではあります。
谷岡ヤスジというアナーキーな原作と1970年代という時代のアナーキーが
計らずも融合した結果、眩暈を覚えるような狂気の作品に。
極端までデフォルメされた谷岡キャラは今の人が見ればさながら
「ゆるキャラ」の如き愛らしさを感じるのかも知れませんが、
それが狂気とエロスとバイオレンスの限りを尽くすというあたりが
ひたすらシュール&ブラックでアヴァンギャルド。ある意味今の人には
新鮮すぎる作品に映るかもしれませんね。
半世紀を経てようやく熟成発酵に成功した作品…なのかな?

に、しても、膣内断面射精描写やら惨殺&切腹シーンなど、
よくも映倫を通過できたものだと驚きます。「漫画なんだからイイか」と
大目に見られた?そういう意味では
「たかがマンガ映画」という蔑視的風潮が残ってた当時だからこそ
スルーされた…のかも知れません。

ただこれを「ポルノ」として観ていいのかどうか?多分一週間で公開が打ち切られた
要因として、ポスターやロビーカードを観た人が「こんなのポルノじゃねえ!」と
劇場に足を踏み入れなかったのではとも推察されます。極端までデフォルメされた
あのタッチは、ポルノというにはあまりにもアグレッシヴすぎたような気もしますし。
随所にハードコア要素は満載だし、子宮姦なんていうぶっ飛んだアニメ描写も
時代を先取りしていると思うのですが、1971年当時これを劇場で観た人は
どう思ったんでしょうかね?やっぱり眉間にシワだったんでしょうか…?
一度伺う機会があれば聞いてみたいものです。

ヤスジのポルノラマ・やっちまえ!  スタッフ
原作漫画/谷岡ヤスジ
製作指揮/渡邊 清
企画/吉沢京夫・土橋寿男
演出/三輪孝輝・高桑慎一郎
脚色/吉田喜昭
作画監督/鈴木 満
原画/谷口守泰・島崎 修・池田順一・村中博美
美術監督/半藤克美
色彩設定/梅野紀一
音響調整/森 武
編集/石村武朗
効果/大野美信
撮影監督/森泉正美
録音/太平スタジオ・TEAスタジオ
現像所/東洋現像所

音楽/橋場清

主題歌
ドバ・ドバ・ソング(作詞・島村葉二/作曲・橋場清/
 浪曲部担当・沢田敏子/曲師・吉野静/唄・ザ・ラニアルズ)
副主題歌
ロンリーブルース
(作詞・島村葉二/作曲・橋場清/唄・杉かおる)
レコード/キャニオンレコード

ワイド・フジカラー・5巻 2767m
上映時間1時間41分(DVD収録分1時間36分)
キャスト
プス夫(ミズノプス夫)…鈴木やすし
ユキ子(カトーユキ子)…鈴木弘子
ムジ鳥&ムジ夫…南 利明
プス夫のオヤジ…雨森雅司
社長…コロムビア・トップ
部長(エリート)…大塚周夫

大家のオバサン…此島愛子
焼き鳥屋台のオヤジ…関 敬六
公園のナンパ男…納谷六朗
隣人の痴女…小原乃梨子
公園の痴女&空港の金髪女…増山江威子
大家の旦那…相模 武
公園の学士…田中亮一
旅館の宿泊客…立壁和也
エリート部隊社員…里見たかし・肝付兼太・立壁和也
新婚旅行の見送り人…加藤 修
オヤジのセックスを見届けた猫…肝付兼太

関 敬六 立壁和也 此島愛子 細井重之 相模 武
肝付兼太 納谷六朗 加藤 修 高田竜二 国坂 伸 
里見たかし 武川 信 田中亮一 井上弦太郎 岡部政明 
中島喜美栄 沢田敏子 渡辺典子 渡辺知子 浅井淑子 
森ひろ子 松崎静子 芝田清子 川口由美子 島木綿子 
※は、本編視聴時に筆者が判断したもの。





と、いうわけで今回の記憶のかさブタ、いかがでしたか?
両作品とも資料を見ただけでゾクゾクするような感覚を覚えてしまいました。
変なたとえですが、悪趣味な怖いもの見たさに近いかな、と。
両作品とも映画史的には抹殺され、評価も酷評の限りだった
「世紀の駄作」扱いを受けています、が、妙にひかれる物があるのは何故でしょう?
解ってるんですよ。こういうのにハマると泥沼だって事。
ただ言えるのは、整然としちゃった現在ではこういう灰汁の塊みたいな
狂った作品の生まれる土壌は無いって事ですね。
それもまた寂しいのですが。
結果として、これらのポルノアニメが日本アニメ映画史上に
残したものというと、功罪でいえば「罪」になるんでしょうね…。
それが証拠に、これらの映画公開後、劇場用ポルノアニメは消滅し、
以降オリジナルアダルトビデオアニメが作られるようになった1984年まで
ポルノアニメの土壌は消滅したのですから。この空白は大きいです。
もっとも、アニメもポルノも世間的評価が低い時代でしたから、
時代が悪かった、という弁護も出来なくはないのですが。

(2022・5・26追記)

今回、新たに発掘された昭和ピンク映画の珍品「好色日本性豪夜話」の記事を加筆・追加しました。
この「幻のポルノアニメ特集」を初公開したのが記録によると2005年9月6日。そんな前だったんですね。
調べて初めて気がついた。それから17年経て同じページを編纂し直すことになろうとは。

あの頃はまさか「やっちまえ!」がDVD化されるなんてね。
希望は抱いてたけど実際に商品化されるとは。
この勢いで「浮世絵」「性豪」もパッケージ化されませんかね?

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