看板

はい、秋も終盤になりまして、皆様いかがお過ごしでしょうか?
記憶のかさブタも85回目。そんなにやりましたか。
今回は過去、短命特集で取り上げた作品を一本に昇格し、新たに作り直しました。

原始少年リュウ
(1971年10月30日〜1972年3月25日・TBS系放映・全22話/製作・東映動画)

タイトル

原始時代を舞台にしたアニメって結構ありますね。
本作品はそんな原始ものの先駆的作品といえるもの。
ただ、それ故に作劇的に相当苦労はしたようです。




原作は壮大なる大河SF漫画・アニメは純然たる原始もの
あらすじはこんな感じ。


  

時ははるか太古の原始時代。人間と恐竜が同時に存在していた世界。
そんな時代のとある集落で一人の赤ん坊が生まれた。名前はリュウ。
その子は他の原始人と異なり、白い肌を持っていた。
「これは悪魔の子だ!」恐怖に駆られた部族の人々は、この赤子を
恐竜チラノの生け贄に捧げ、悪魔を葬らんとする。
しかし、その生贄の赤子を雌の類人猿キティが救出。
キティはリュウを我が子のように育て、十数年後、リュウは立派な少年に成長する。


そんなリュウの前にオオツノ族の少女・ランが現れ、二人は次第に懇意になっていく。
その様子を憎しみ深く思う部族の若者・タカ。


好意を抱いていたランを取られた事、リュウの悪魔の白い肌、リュウの実力に対する脅威…
やがてタカはリュウに殺意を覚えていく。が、そんな折、集落を暴竜・チラノが襲撃!
育ての母であるキティはチラノによって重傷を負い、看病の甲斐なく死亡。
悲しみの最中、リュウは本当の母親が今もどこかに生きていると知り、
彼は母を求めて旅に出る決意をする。
ランもリュウに付いていくため部族を離れ、共に旅立つ決意をする。


まずは彼女の弟・ドンがいる集落を目指すことになる二人。
タカもリュウからランを奪回するため追撃する。
しかし、リュウがたどり着いた集落は既にチラノの襲撃を受け死屍累々の地獄に…。
原始少年リュウの残酷かつ苛烈な旅は、始まったばかりだった。



原始ものの苦労と作劇の苦心
原作は週刊少年マガジンに連載されていた石森章太郎の大河SF漫画「リュウの道」の第二部にあたります。
第一部「リュウの道(未来編)」第二部「原始少年リュウ(太古編)」第三部「番長惑星(現代編)」からなる
壮大なSFストーリーで、「中の鉄骨の骨組みが見える製作途中の地球」というリュウの道の単行本表紙は
私が子供当時見て、強烈なインパクトを残したのを思い出されます。


本来は第一部の「リュウの道」をアニメ化する予定で企画が始まり、
パイロットフィルムも「リュウの道」のタイトルで制作されたのですが、
人類滅亡後の未来の世界を描くSF作品を当時のTVアニメで流すのは
視聴層たる児童には難解と判断されてか、急遽企画を変更。
アニメ用にあらたに「純然たる原始ロマンもの」として構成し直される事になりました。
そんなメディアミックス的見地で描かれたと思しきリュウの道第二部「原始少年リュウ」を下地に、
過去石森氏が「小学六年生」誌上で発表した漫画「原始少年サラン」のエッセンスも加えて
出来あがったのが本作品。


アメリカの原始スペクタクル映画「紀元前百万年」と同じく、
人類と恐竜が共存していた世界として設定され、
また当時の第二次怪獣ブームも背景にあったこともあり
(帰ってきたウルトラマン・宇宙猿人ゴリ等の頃)
宿敵チラノとリュウとの戦いは幾度と描かれることになります。


そしてあらすじはこの後、以下のように続きます。

リュウはラン、そして再会出来たランの弟・ドンの三人で旅を続けることになりました。


その途中幾度となく追撃し、執拗にリュウを殺そうとタカ、
不意を突いて現れる不死身の暴竜・チラノ、
不寛容と勢力争いから巻き起こる部族同士の戦争…。
様々な苦難に見舞われ、傷ついていくリュウたち。

その逃走の途中、リュウたちは山中に籠る謎の男・キバと出会います。


彼は妻子をチラノに殺されており、復讐のためにチラノを待っていると語ります。
復讐に燃える歴戦の勇者キバ。しかし彼には拭いきれない暗い影が頭をもたげます。
実はキバにはアナグマ族にいた少年時代、
オルゴン族との人質交換に使われそうになり、身代わりとして幼い弟を差し出した、という
悔やみきれない過去があったのです。そしてその弟は、リュウを執拗に狙うタカであることが後日判明!
遂にむかえたチラノとの戦いで瀕死の重傷を負ったキバは、忌の際にタカに詫び、
リュウへの怨念を捨てるよう 言い残します。


だが、タカの憎しみは消えることはありませんでした。
リュウを殺すため、彼を追い、行く先々の部族や集落で
「リュウが来た所には悪魔の災いが降りかかる」と吹聴し、
リュウたちの旅路を困難に陥れていくタカと、その仲間カリム。
そんな苦難の旅路の途中、リュウたちと山の温泉で出会った老人が、
かつて自分の村にリュウと同じ白い肌の女がいたことを語るのです。
しかし、その女や老人の息子たちは奴隷として皆連れ去られてしまった、といいます。
ついに見つけた母の手掛かり!リュウたちはタカの執拗な追撃に遭いながらも、
母が捕えられているという集落へと向かうのですが…。

アニメではリュウの肌が白い、という理由で「悪魔の子」と忌み嫌われ、
行く先々で偏見と敵意に見舞われるというのが定番になるのですが、原作の「リュウの道→原始少年リュウ」では
「母の正体は未来人」という壮大なからくりが内包されていて、それ故の白い肌、
という理由も明示されているのですが、前述のように本作品は「リュウの道」とは一切繋がらない
純然たる原始ものとして再構成されたため、この白い肌の理由が明示されないままでした。
原作の高度なSF的複線や裏設定が使えなくなった結果、
原始社会の人間や部族を中心としたストーリーにせざるをえず、
高度な人間ドラマが紡ぎにくくなる弊害を生んでしまったのも事実。
文明社会を舞台に出来ないのだから仕方が無いのですが、結果、
「偏見や差別、怨念に苛まれるリュウ一行が他族間の抗争劇に巻き込まれつつ、まだ見ぬ母を求めて今日もさすらう」
という展開が多くなってしまい、ドラマの幅が拡がりませんでした。原始時代を舞台に、と書くと
一見ネタの宝庫のように思えるのですが、実際やってみるとさにあらず。
あらためてリュウを見ると、何とか作劇に変化をつけようとするスタッフの苦労が随所から感じられます。
第18話の「巨象の暴走」はそんな一本で、実はこの作品、
未完成に終わった東映の劇場用長編動画「キングマンモス」の映像を流用して制作された一篇。
いつもと違う展開を見せることでドラマの幅を拡げたかったのでしょう。


美術面では、原始時代ゆえ普通のアニメの背景は使えず、
岩や植物、山肌に雪原が基本背景ということもあって
背景美術にとくに工夫が凝らされております。浦田又治氏による
油絵などに使うペインティングナイフを用いて描かれた背景は
硬質で荒々しいタッチで、見事リュウの原始世界の風景を
立体的に表現する事に成功しました。リュウといえば
あの切り立った断崖絶壁、と思い起こす人も多いのでは?


  

石森&東映タッグ本格始動の1971年、音楽・大塩潤?

本作品の放送された1971(昭和46)年というのは、石森作品が一挙に四つも映像化されていて、
(仮面ライダー・好き!すき!魔女先生・さるとびエッちゃん・原始少年リュウ)
東映が石森プッシュを猛烈に開始した年でもありました。原始少年リュウはそのトリを飾る作品で、
本作の放映前に同枠で、劇場公開された石森アニメ「空飛ぶゆうれい船」「海底3万マイル」
前後編形式で30分枠で4回連続放映されています。これも当時
仮面ライダー人気華やかなりし頃故の石森作品に対する期待の表れでしょうか。
(あるいは放送日程調整?中途半端な放送開始日ですしね。)
この放映の際に「空飛ぶゆうれい船」のボアジュースのくだりが飲料メーカーへのスポンサー配慮からカットされ、
怒った演出の池田宏氏はクレジットから自分の名前を消した、という逸話も残っています。
って言うか、あれをTVのゴールデン枠で流したのか…という事実が驚きですが。
この1971の石森4作品、結果として仮面ライダーが
社会現象まで引き起こす大ヒットを遂げた事もあって、翌年以降は石森変身ヒーローの
百花繚乱時代になってしまう訳ですが。
(アニメは1974年の「星の子チョビン」まで暫しのブランクが空きます。)

水木一郎のアニメデビュー曲作品としても知られる本作品。
音楽の大塩潤氏は数多くの名作アニソンの生みの親・渡辺岳夫氏のペンネーム。
放送が土曜夜7時ということで、裏番組に「天才バカボン」があったための
配慮といわれています。大塩というのは夫人の旧姓から採ったものらしく、
このペンネームは大映テレビ制作のドラマ
「怪人二十面相」(1977・フジテレビ)でも使用されています
(これも裏番組が「キャンディ・キャンディ」だった関係上)
オトナの事情は複雑なのです。


 

そして終局へ リュウの旅路の果ては

そして物語は終盤へと突入、佳境に入ります。

怨敵タカとその仲間カリムに追われ続け、
行く先々で偏見に見舞われ、多くの災難に見舞われつつ、
リュウは母・エスタが捉われているカナク族の集落のふもとまでたどり着きます。
そこで暖を取るため焚火をし一夜を明かすのですが、翌朝、消えた焚火の灰の中に
光る刃のような物体を見つけます。手に取るリュウ。
熱さで思わず投げ捨てたところ樹に鋭く突き刺さります。「…!」
あらためて手に取り、振りおろしてみると、木枝を簡単に切断。
なんだこれは?よくみると焚火のまわりの砂がキラキラ光っています。
「この砂が焚火で固まったんだ!」リュウはその光る刃を傍にあった砥石(のような岩)で研ぎ始めます。
研ぎ続ける事しばし、「出来た!これは牙だ!人間の牙だ!」
リュウはここに、チラノを倒す武器を手に入れたのです。
(焚火で出来る金属なので強度的には大したこと無いんでしょうが、当時は石や骨が矢じりに用いられていた
時代なので、金属の鋳造なんていう技術はまさしくオーパーツ。最終回前話にしていきなり手に入れた
偶然の必殺武器「人間の牙」。(運よく研ぎ石も傍にあったもので))

その切れ味は凄まじく、初戦で怨的チラノの左目をつんざき、戦闘不能に陥れることに成功。
このまま追撃すれば、ついにチラノを倒せる!
物語はその勢いのまま、最終局面へ。

必殺の武器を入手したリュウは手負いのチラノを追撃します。
目を潰されたチラノは半狂乱に暴れまわっており、機を察したリュウはチラノに飛びつき
その心臓に「人間の牙」を深々と突き立てます。血を吐き崩れ落ちるチラノ。
キティの仇・キバの無念を、ついに果たしたリュウ。

そしてリュウたちは母が奴隷として捕えられているというカナク族の集落に向かいます。
しかしリュウの母・エスタは先回りしたタカとカリムによって捕えられ、人質に。
なにがなんでもリュウを殺そうとするタカの執念。
ついにリュウとタカ&カリムは氷河の大地で対峙することに。

カリムは人間の牙を胸に受け絶命。
しかし間髪入れず、リュウ目がけてタカの石槍が突進!
が、リュウはそれをかわし、タカをそのまま投げ飛ばします。
氷河の断崖絶壁から落ちていくタカ。
悲鳴と絶叫を残し、怨念の刺客は闇に消えます。
ついに再会した母と子。ランやドンも再会を喜び、
四人は明日を告げる朝日の中、共に歩いていくのでした。

という最終回。チラノの最終決戦は前半Aパートであっさり決着。物語の本筋たる母との再会が
メインに控えているもんで。Bパートはシリーズ通してのもう一人の敵役・タカとの決闘が
クライマックス。怨念と偏見に狂ったものは最後は自滅する、というラスト。考えてみれば
タカは元々キバの身代わりの生贄として見捨てられ、結果憎悪に狂ってしまったキャラクター。
哀しい焼き上がりになってしまったといえばそうなんですが。
ラストはリュウ親子とラン姉弟がそろって朝日の昇る海岸線を歩き去るシーンで幕を閉じましたが、
その後は四人でどこかの集落で暮らしたんですかね?


  
※参考資料
週刊TVガイド1971年10月〜1972年3月
生きているヒーローたち 東映TVの30年(1989年12月16日発行・講談社)
懐かしのTVアニメ99の謎 東映動画編(1995年10月25日発行・二見書房)
懐かしのTVアニメベストエピソード99 東映動画編(1995年10月25日発行・二見書房)

原始少年リュウ 制作スタッフ

原作/石森章太郎(週刊少年チャンピオン・小学館の学習雑誌連載)
製作担当/江藤昌治
企画/横山賢二
美術/浦田又治・辻 忠直・伊藤攻洋・山崎 誠・横井三郎・土田 勇
音楽/大塩 潤(渡辺岳夫)
OP/原始少年リュウがゆく(作詞・石森章太郎/作曲・大塩 潤/唄・水木一郎)
ED/ランのうた(作詞・石森章太郎/作曲・大塩 潤/唄・堀江美都子)

放送No放送日サブタイトル脚本 演出作画監督
1971.10.30原始の掟近藤 正田宮 武小松原一夫
1971.11.6チラノの恐怖 布勢博一明比正行熊尾義之
1971.11.13タカの復讐押川国秋高見義雄田中英二
1971.11.20傷だらけの追跡近藤 正蕪木登喜司森 利夫
1971.11.27ヤマネコ族の陰謀近藤 正新田義方我妻 宏
1971.12.4狩場争い押川国秋葛西 治小松原一夫
1971.12.11血みどろの勇者近藤 正久岡敬史田中英二
1971.12.18運命の出会い押川国秋 田宮 武熊尾義之
1971.12.25悪魔の石安藤豊弘明比正行森 利夫
101972.1.1吹雪の中の巨人押川国秋 高見義雄藤原万秀
111972.1.8神の山の怒り近藤 正蕪木登喜司我妻 宏
121972.1.15愛情ある特訓押川国秋新田義方小松原一夫
131972.1.22火の罠押川国秋葛西 治田中英二
141972.1.29勇者の墓押川国秋久岡敬史熊尾義之
151972.2.5狂った孤島近藤 正田宮 武森 利夫
161972.2.12人間野獣安藤豊弘明比正行藤原万秀
171972.2.19断崖の絶叫近藤 正高見義雄荒木伸吾
181972.2.26巨象の暴走押川国秋蕪木登喜司熊尾義之
191972.3.4吠えろ狼真弓典正新田義方小松原一夫
201972.3.11奴隷狩り安藤豊弘葛西 治森 利夫
211972.3.18人間の牙真弓典正久岡敬史荒木伸吾
221972.3.25明日に向って押川国秋明比正行我妻 宏

キャスト


リュウ(井上真樹夫)
ラン(平井道子)
ドン(大田淑子・1〜5話までクレジットは丸山裕子(1〜5話にドンは未登場))
タカ(村越伊知郎)
キバ(納谷悟朗・22話のみ谷津勲)
リュウの母(瀬能礼子)
カリム(峰 恵研)
槐 柳二 池水通洋 沢りつお 田の中勇 辻村真人 牧野和子 作間功 
市川治 菊地紘子 梶 哲也 安原義人 杉山佳寿子
阪 脩 千々松幸子 山下啓介ほか


というかんじでお届けしました記憶85回目。
この作品もマイナーな扱いを受けていますね。
水木一郎のアニソンデビュー作品ということで
アニキ関連ではやたら名前の挙がる作品ではありますが
作品自体の認知度は決して高くもないというか。
私の地方では一切再放送の記憶がありません。
大学時代に岡山の友人のビデオライブラリーを見せてもらって
それで記憶にある次第。リアルタイムじゃ無いわけで。
近年ようやくソフト化されましたね。VHS時代は
OPED以外は一切ソフト化が無かったから。

本来なら短命アニメ特集2に掲載した記事は
重複するので削除すべきなんでしょうが、
このページ、あかぬけ!も扱ってるから
紹介作品4本中2本削除となると流石にもう形を成さないので
とりあえず現状のまま残すことにしました。
差し替えの2本分というのもひと仕事になりますし
その為にはまた国会図書館に行くのが常ですが、現状…。

次回は年末までに更新したいところです。それでは。




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